胸壁の痛みを理解する

胸痛・肋軟骨炎
解剖と痛みのパターン概要非心臓性胸痛は、臨床でよく経験される症状の一つです。心臓やその他の重大な原因が除外されたあとも、「非定型胸痛」「筋骨格系胸痛」といった大まかな診断名のままにとどまる方が少なくありません。こうした症例の一部では、胸壁の筋にあるトリガーポイントが関与している可能性があるとされています。ただし、筋骨格系の説明はトリガーポイントだけではなく、原因が単一でないことのほうが多く見られます。
胸壁は複雑な構造をしており、筋・軟骨・肋骨・神経のいずれに由来する痛みも、ほかの疾患と紛らわしい症状として現れることがあります。この重なりがあるからこそ、医学的な評価を先に受けていただくことが欠かせません。診察によって、考えられる関与因子を区別する手がかりが得られるでしょう。
胸痛にはさまざまな原因があり得ます。重大な疾患が除外されたあとで、トリガーポイントを含む筋骨格系の関与因子を検討する価値はありますが、それは大きな臨床像の一部にすぎません。
肋軟骨炎 ― 肋軟骨接合部の痛み ― は、非心臓性胸痛に対してよく用いられる診断名の一つです。一部の患者さんでは、筋膜性の要素がこの症状に併存または関与している可能性が議論されています。炎症・力学的因子・筋膜性の関与がそれぞれどの程度寄与しているかを、すべての症例で明確に切り分けることはできません。
関与が考えられる筋肉
胸壁のいくつかの筋は、トリガーポイントを生じることがあります。以下は、非心臓性胸痛の文脈で議論されることの多い筋肉の一部です。網羅的なリストではなく、これらの筋にトリガーポイントがあるからといって、その方の症状をすべて説明するものでもありません。
大胸筋のトリガーポイントは、胸部・肩前面・上腕内側にかけて関連痛を放散することがあります。これらの関連痛パターンは、心臓性疼痛の領域と一部重なって現れることがあるため、まず心臓の評価を受けていただくことが先決となります。長時間のデスク姿勢、重量物の挙上、心理的ストレスとの関連が指摘されている所見です。
肋間筋のトリガーポイントは、肋骨に沿った鋭く限局性の痛みを生じ、深呼吸・咳・体幹のひねりで増悪することがあります。肋軟骨接合部の痛みは肋軟骨炎と診断されることがあり、一部の患者さんでは筋膜性の要素が併存または関与している可能性が議論されています。
横隔膜は肋骨付着部に沿ってトリガーポイントが生じることがあります。下部前胸壁や心窩部に関連痛を放散する場合があるとされています。胸式優位の呼吸パターンは、一部の患者さんで胸壁筋への過負荷に関与する背景として議論されています。
大胸筋
胸部から腕にかけて関連痛を放散することがあります。心臓性疼痛の分布と一部重なるため、まず心臓の評価が先決となります。
肋間筋
肋骨に沿った、呼吸に関連する鋭い痛み。肋軟骨炎型の症状における関与因子の一つとして議論されています。
横隔膜
下部胸壁や心窩部に関連痛を放散することがあります。一部の患者さんでは呼吸パターンが背景として議論されています。
関連痛パターン
胸壁トリガーポイントの関連痛パターンの一部は、心臓・肺・消化器疾患のパターンと重なります。この重なりがあるからこそ、筋骨格系としての解釈に進む前に、医学的な評価を先に受けることが欠かせません。
大胸筋(胸骨部)
肋間筋
横隔膜
自分で観察できること
胸痛で自己判断できることはごくわずかです。十分な医学的評価を受け、担当医から筋骨格系の関与が示唆された場合に、以下の観察事項が次回の受診時に伝える材料となるかもしれません。
呼吸パターンの観察
医学的な除外を受けたあとのアプローチ
担当医が胸痛に筋骨格系の関与を認めた場合、以下のアプローチが該当することがあります。これらが適切となるのは、心臓やその他の重大な原因が除外されたあとに限られます。
セルフケア(医学的な除外を受けたあとで)
- 呼吸の練習:ゆったりとした腹式呼吸 ― 鼻から吸い、口をすぼめてゆっくり吐く。1日に数回、数分ずつ取り組みましょう
- ドアフレームを利用した、無理のない大胸筋ストレッチ ― 心地よい範囲で20〜30秒保持
- 心地よく感じる場合は、胸壁に温罨法を当ててみる
- ストレス管理とリラクゼーション ― 胸壁の症状はストレスや不安の影響を受けやすいことが知られています
専門的な治療
- 徒手療法:胸壁の筋に見つかった圧痛点への、やさしい徒手アプローチ
- 胸式優位の呼吸パターンが認められる場合の、理学療法士による呼吸リトレーニング
- 巻き肩・胸椎の硬さ・頭部前方位への姿勢的な取り組み(該当する場合)
- 無理のない範囲で、活動と運動を段階的に再開していく
- 健康不安が強い場合の心理的サポート ― 非心臓性胸痛では心臓への心配が伴いやすく、これは自然な反応であり、丁寧に取り上げる価値があります
危険な兆候:すぐに受診すべきとき
胸痛は、適切な評価を受けるまでの間は、医療上の緊急事態として扱う必要があります。以下の所見があるときは、直ちに医療的な対応が必要です。該当する場合はためらわず119番(救急車)にご連絡ください。
新たに生じた胸痛・性状が変化した胸痛・原因のはっきりしない胸痛は、筋骨格系の原因を考える前に医学的な評価が必要です。心臓やその他の重大な原因をまず除外する必要があります。
適切な医学的評価を経たあとで、胸壁のトリガーポイントは、非心臓性胸痛における筋骨格系の関与因子の一つとして検討に値することがあります。ただし、唯一の説明ではありません。
肋軟骨炎の一部の患者さんでは、筋膜性の要素が症状に併存または関与している可能性が議論されています。
呼吸パターン・姿勢・ストレスは、胸壁症状を持つ一部の患者さんで関与因子として議論されている要素です。
腹式呼吸の練習・無理のないストレッチ・ストレス管理といったセルフケアは、医学的な除外を受けたあとに役立つ場合があります。新たな症状に対する医学的評価の代わりにはなりません。
非心臓性胸痛は、心臓に対する強い不安を伴うことがあります。これは自然な反応であり、不安への取り組みもケアの一部として位置づけられています。


