ドライニードリングとは
ドライニードリングは、注射針とは違って中が空洞になっていない細い鍼を使い、選んだ筋やその他の軟部組織の標的を刺激する方法です。薬や溶液は注入しません。痛みの状態、期待できる効果、安全な進入経路があるかを評価したうえで、この処置を行うだけの理由があるかを判断します。
この治療は、肩の筋筋膜性疼痛や頸部痛をはじめ、いくつかの特定の病態で研究されてきました。結果は、対象者、比較の相手、併用したケアによって異なります。ある病態で良い結果が出たからといって、押すと痛む筋すべてに効果があるとは限りません。
訓練を受けた施術者が、予定している標的、ほかの選択肢、関連するリスクを説明して同意を得たうえで、振り返りに使う指標(首を回すとき、噛むとき、歩くときの痛みなど)を一緒に決めます。なお日本では、鍼を刺す行為を業として行えるのは、医師と、はり師の国家資格をもつ人に限られています。
考えられている作用機序と測定された効果
ドライニードリングは機械的な刺激を与え、痛みの処理を変化させる可能性があります。実験的な知見は起こり得る作用を説明する手がかりになりますが、痛みや日常の機能が実際に良くなるかどうかは、臨床試験で確かめなければなりません。
治療の良し悪しは、決めておいた動作での痛みと、施術の後にできるようになったことで判断します。
局所単収縮反応(LTR)
刺鍼の最中に、筋が一瞬だけ不随意に収縮することがあります。これは刺激に対する反応の一つです。その施術が役立ったかどうかは、治療後の痛みと機能で判断します。
運動終板に関する研究
ウサギを用いた実験では、刺鍼した部位から離れた筋でも終板の電気的な活動が変化しており、脊髄を介した神経の関与が示唆されました。PMID 21529778。
局所の生化学的な環境
ヒトを対象とした小規模なサンプリング研究では、活動性トリガーポイントの周辺で、痛みに関わる化学物質の濃度が異なっていました。ただし、刺鍼でそれらの物質が正常に戻ることや、生化学的な変化が症状の軽減を説明することまでは示されていません。PMID 18164325。
痛みの調節
鍼の刺激は、刺した場所でも神経系を通じても、痛みの処理を変化させる可能性があります。僧帽筋を対象としたシャム対照試験では、痛みへの効果は2日後から現れました。とはいえ、この試験が測定したのは痛みの軽減であり、どの神経経路が働いたかではありません。PMID 34235343。
血流と感受性
刺鍼に対する局所の反応を調べるため、研究では血流や圧痛の感じやすさが測定されています。こうした生理学的な指標は、日常の動作での痛みが良くなることとは別のものです。
筋の硬さ
腓腹筋に潜在性トリガーポイントのある参加者では、2回のドライニードリングによって、施術部位の安静時の硬さがシャムより低下しました。筋力と、力を入れたときの硬さには差がありませんでした。PMID 33075711。
手技の種類
深部ドライニードリング
訓練を受けた施術者が診察をもとに筋内の標的を選び、胸膜・神経・血管など近くにある構造を避けられる進入経路を計画します。鍼の長さ、刺入の深さ、角度は、その方の解剖に合わせて決まります。
浅部ドライニードリング(ボルドリー法)
浅い手技では、筋より上の層の組織を刺激します。筋内への刺鍼とは、標的となる組織も刺激の性質も異なります。受け入れやすさや効果は、プロトコルと症状の現れ方によって変わってきます。
鍼の操作
選んだ筋の中で鍼を動かすプロトコルもあれば、ほとんど動かさずに留置するプロトコルもあります。どの方法をとり、操作をどこまでにとどめるかは、解剖、同意、反応をみながら施術者が判断します。
超音波ガイド下ドライニードリング
超音波を使うと、選んだ標的と周囲の構造を画像で確かめやすくなります。梨状筋の試験では超音波ガイド下の刺鍼が用いられましたが、その結果が当てはまるのは診察で確認された梨状筋症候群であり、追跡期間も短いものでした。PMID 31415092。
PubMed 31415092施術中に起こること
最初の刺入
局所単収縮反応
施術者が選ぶ刺激
所要時間
施術後の痛み
研究されている病態
緊張型頭痛
頸部痛
肩の痛み
腰痛
テニス肘(上腕骨外側上顆痛)
足底腱膜炎
顎関節・顎の痛み
梨状筋症候群
エビデンス
ドライニードリングは、一部の筋筋膜性の病態で痛みを和らげることがあり、その効果は多くの場合、数日から数週間の単位でみられています。どれだけ上乗せの効果があるかは、診断や併用するケアによって変わります。機能の改善が長く続くことについては、エビデンスの一貫性が乏しいのが現状です。
Pai ら(2021年)は、慢性的な肩の筋筋膜性疼痛で、僧帽筋への1回の施術後2〜7日目に、シャムより大きな痛みの軽減を認めました(43人を無作為化し41人を解析、PMID 34235343)。一方、Gattie(2021年)では、機械的な頸部痛の患者77人を対象に、どちらの群にも運動療法と徒手療法を併用したところ、1年後まで痛みにも機能障害にもシャムを上回る効果はみられませんでした(PMID 33383999)。
PubMed 34235343PubMed 333839992021年の米国の腰痛診療ガイドラインは、慢性腰痛を短期的に和らげる目的で、ほかのケアと併用してドライニードリングを検討することを認めています(PMID 34719942)。2026年の梨状筋症候群の比較試験では、参加者48人のうち44人が、ストレッチに加えて刺鍼か拡散型衝撃波を週1回・計3回受けました。両群とも1か月後・3か月後に改善しましたが、明らかな差はありませんでした。シャム群が置かれていないため、処置そのものの効果は検証されていません(PMID 42291383)。
PubMed 34719942PubMed 42291383痛みの軽減
可動域
日常の機能
安全性と施術前の評価
研究での治療コースと再評価
僧帽筋の試験
梨状筋の試験
頸部痛の試験
施術後のケア
無理のない範囲で動く
- 取り決めた運動プログラムを、つらくない範囲で続けます。ストレッチは関係する可動域の制限に合わせて選び、心地よい範囲で行ってください。
局所の痛み
- 治療後に、軽い局所の痛みや内出血が出ることがあります。落ち着いていくかどうかを見守り、痛みが強い、悪化している、あるいは想定していた局所の痛みとは違うと感じたときは、施術者に伝えてください。
負荷のかかる活動への復帰
- 激しい活動は、治療した病態、現在の痛み、取り決めたリハビリテーション計画に合わせて調整します。
すぐに診察が必要な症状
- 首・肩・胸のあたりへの刺鍼の後に、胸の痛み、息切れ、新たに続く咳が出た場合は、気胸の可能性があるため、すぐに診察を受けてください(症状が強いときは119番)。新たな筋力低下、広がっていくしびれ、発熱、局所の赤みの悪化も、診察が必要なサインです。PMID 38623313。