§ 01

ドライニードリングとは

ドライニードリングは、注射針とは違って中が空洞になっていない細い鍼を使い、選んだ筋やその他の軟部組織の標的を刺激する方法です。薬や溶液は注入しません。痛みの状態、期待できる効果、安全な進入経路があるかを評価したうえで、この処置を行うだけの理由があるかを判断します。

この治療は、肩の筋筋膜性疼痛や頸部痛をはじめ、いくつかの特定の病態で研究されてきました。結果は、対象者、比較の相手、併用したケアによって異なります。ある病態で良い結果が出たからといって、押すと痛む筋すべてに効果があるとは限りません。

訓練を受けた施術者が、予定している標的、ほかの選択肢、関連するリスクを説明して同意を得たうえで、振り返りに使う指標(首を回すとき、噛むとき、歩くときの痛みなど)を一緒に決めます。なお日本では、鍼を刺す行為を業として行えるのは、医師と、はり師の国家資格をもつ人に限られています。

PubMed 34235343
§ 02

考えられている作用機序と測定された効果

ドライニードリングは機械的な刺激を与え、痛みの処理を変化させる可能性があります。実験的な知見は起こり得る作用を説明する手がかりになりますが、痛みや日常の機能が実際に良くなるかどうかは、臨床試験で確かめなければなりません。

治療の良し悪しは、決めておいた動作での痛みと、施術の後にできるようになったことで判断します。

01

局所単収縮反応(LTR)

刺鍼の最中に、筋が一瞬だけ不随意に収縮することがあります。これは刺激に対する反応の一つです。その施術が役立ったかどうかは、治療後の痛みと機能で判断します。

02

運動終板に関する研究

ウサギを用いた実験では、刺鍼した部位から離れた筋でも終板の電気的な活動が変化しており、脊髄を介した神経の関与が示唆されました。PMID 21529778。

03

局所の生化学的な環境

ヒトを対象とした小規模なサンプリング研究では、活動性トリガーポイントの周辺で、痛みに関わる化学物質の濃度が異なっていました。ただし、刺鍼でそれらの物質が正常に戻ることや、生化学的な変化が症状の軽減を説明することまでは示されていません。PMID 18164325。

04

痛みの調節

鍼の刺激は、刺した場所でも神経系を通じても、痛みの処理を変化させる可能性があります。僧帽筋を対象としたシャム対照試験では、痛みへの効果は2日後から現れました。とはいえ、この試験が測定したのは痛みの軽減であり、どの神経経路が働いたかではありません。PMID 34235343。

05

血流と感受性

刺鍼に対する局所の反応を調べるため、研究では血流や圧痛の感じやすさが測定されています。こうした生理学的な指標は、日常の動作での痛みが良くなることとは別のものです。

06

筋の硬さ

腓腹筋に潜在性トリガーポイントのある参加者では、2回のドライニードリングによって、施術部位の安静時の硬さがシャムより低下しました。筋力と、力を入れたときの硬さには差がありませんでした。PMID 33075711。

PubMed 21529778PubMed 18164325PubMed 34235343PubMed 33075711
§ 03

手技の種類

深部ドライニードリング

訓練を受けた施術者が診察をもとに筋内の標的を選び、胸膜・神経・血管など近くにある構造を避けられる進入経路を計画します。鍼の長さ、刺入の深さ、角度は、その方の解剖に合わせて決まります。

標的の決め方: 一人ひとりの解剖学的な評価にもとづく評価で定めた筋の標的があり、適切な進入経路をとれる場合

浅部ドライニードリング(ボルドリー法)

浅い手技では、筋より上の層の組織を刺激します。筋内への刺鍼とは、標的となる組織も刺激の性質も異なります。受け入れやすさや効果は、プロトコルと症状の現れ方によって変わってきます。

標的の決め方: 浅い層の組織。個別に評価施術者が浅い手技を選んだ場合

鍼の操作

選んだ筋の中で鍼を動かすプロトコルもあれば、ほとんど動かさずに留置するプロトコルもあります。どの方法をとり、操作をどこまでにとどめるかは、解剖、同意、反応をみながら施術者が判断します。

標的の決め方: 刺入前に決定評価した病態に合わせて定めたプロトコル

超音波ガイド下ドライニードリング

超音波を使うと、選んだ標的と周囲の構造を画像で確かめやすくなります。梨状筋の試験では超音波ガイド下の刺鍼が用いられましたが、その結果が当てはまるのは診察で確認された梨状筋症候群であり、追跡期間も短いものでした。PMID 31415092。

PubMed 31415092
標的の決め方: 解剖と画像をもとに選択訓練を受けた施術者が評価した、一部の深部の標的
§ 04

施術中に起こること

最初の刺入

皮膚に鍼が入るときは、一瞬チクッとすることがあります。鍼が苦手な方や、以前に気を失いかけたことのある方は、体勢や治療計画を調整できるよう、施術者に伝えてください。

局所単収縮反応

短い収縮が起こると、筋がつったり、ピクッと跳ねたりするように感じることがあります。単収縮は、治療が役立った証拠として必須のものではありません。施術後に痛みと動作を確認して判断します。

施術者が選ぶ刺激

標的の数や鍼を動かす程度は、診察、手技、耐えられる程度によって決まります。施術中も、同意は随時確認されます。

所要時間

来院時には、評価、体位の準備、刺鍼、振り返りを行います。刺鍼にかかる時間は、選んだ手技と、診察で確認した標的の数によって変わります。

施術後の痛み

局所の痛みが数日続くことがあります。通常は落ち着いていきますが、痛みが悪化するときや、胸・呼吸・神経に関わる新たな症状が出たときは、診察を受けてください。
§ 05

研究されている病態

緊張型頭痛

慢性緊張型頭痛を対象としたシャム対照試験では、2週間で6回の施術を行い、160人が試験を終えました。頭痛の指標は改善し、1か月後まで追跡されています。対象は診断のついた慢性緊張型頭痛であり、首の圧痛を伴う頭痛すべてに当てはまるわけではありません。PMID 30813155。PubMed 30813155

頸部痛

機械的な頸部痛のある成人77人では、運動療法と徒手療法にドライニードリングを加えても、1年後までの痛みや機能障害はシャムと比べて改善しませんでした。処置を加える前に、まず頸部の状態とリハビリテーションへの反応を確かめます。PMID 33383999。PubMed 33383999

肩の痛み

肩の筋筋膜性疼痛の一部には、短期的なエビデンスがあります。僧帽筋を対象としたある試験では、施術後1週間の痛みについて、刺鍼がシャムを上回りました。ただし、腱板断裂の治療を裏づけるものではありません。PMID 34235343。PubMed 34235343

腰痛

2021年の米国の腰痛診療ガイドラインは、慢性腰痛を短期的に和らげる目的で、ほかの治療と併用してドライニードリングを検討してもよいとしています。腰方形筋や多裂筋など、特定の筋を痛みの原因とみなしているわけではありません。PMID 34719942。PubMed 34719942

テニス肘(上腕骨外側上顆痛)

2022年の米国の肘外側部痛ガイドラインは、外側上顆の腱障害に伴う痛みと機能低下に対して、腱またはトリガーポイントへのドライニードリングを推奨しています。どちらも肘の診察から選ぶ、それぞれ別の標的です。PMID 36453071。PubMed 36453071

足底腱膜炎

2023年の米国の踵部痛ガイドラインは、足底の踵の痛みに対し、腓腹筋・ヒラメ筋・足底の筋にあるトリガーポイントへのドライニードリングを推奨しています。適応となるのは診察で確認された踵の痛みで、ふくらはぎの圧痛だけでは当てはまりません。PMID 38037331。PubMed 38037331

顎関節・顎の痛み

咬筋と側頭筋前部への刺鍼を調べた2026年のシャム対照研究では、筋筋膜性の顎関節症(TMD)で10分後の痛みの軽減がみられましたが、効果が続くかどうかは確かめられていません。顎の運動、セルフケア、適切に選んだ徒手療法も、引き続き検討に値する選択肢です。PMID 42512705。PubMed 42512705

梨状筋症候群

32人を対象とした試験では、超音波ガイド下の刺鍼が、1週後の痛みの軽減で順番待ち(無治療)の対照群を上回りました。その後の拡散型衝撃波との比較では、1か月後・3か月後に明らかな差はみられていません。どちらの試験も、シャム処置を上回る効果を示したものではありません。PMID 31415092・42291383。PubMed 31415092PubMed 42291383
§ 06

エビデンス

短期的な効果。エビデンスにはばらつき病態・比較の相手・追跡期間が結果を左右します

ドライニードリングは、一部の筋筋膜性の病態で痛みを和らげることがあり、その効果は多くの場合、数日から数週間の単位でみられています。どれだけ上乗せの効果があるかは、診断や併用するケアによって変わります。機能の改善が長く続くことについては、エビデンスの一貫性が乏しいのが現状です。

Pai ら(2021年)は、慢性的な肩の筋筋膜性疼痛で、僧帽筋への1回の施術後2〜7日目に、シャムより大きな痛みの軽減を認めました(43人を無作為化し41人を解析、PMID 34235343)。一方、Gattie(2021年)では、機械的な頸部痛の患者77人を対象に、どちらの群にも運動療法と徒手療法を併用したところ、1年後まで痛みにも機能障害にもシャムを上回る効果はみられませんでした(PMID 33383999)。

PubMed 34235343PubMed 33383999

2021年の米国の腰痛診療ガイドラインは、慢性腰痛を短期的に和らげる目的で、ほかのケアと併用してドライニードリングを検討することを認めています(PMID 34719942)。2026年の梨状筋症候群の比較試験では、参加者48人のうち44人が、ストレッチに加えて刺鍼か拡散型衝撃波を週1回・計3回受けました。両群とも1か月後・3か月後に改善しましたが、明らかな差はありませんでした。シャム群が置かれていないため、処置そのものの効果は検証されていません(PMID 42291383)。

PubMed 34719942PubMed 42291383

痛みの軽減

肯定的な試験の一部が測っているのは数日〜数週間の変化で、持続的な回復ではありません

可動域

可動域の変化は病態によって異なり、痛みの原因を特定するものではありません

日常の機能

治療前に困っていた動作をもう一度確かめます。圧痛だけでは判断できません
§ 07

安全性と施術前の評価

スイスのドライニードリング安全ガイドライン(英語PDF)

§ 08

研究での治療コースと再評価

僧帽筋の試験

施術は1回。その後1週間にわたり、痛みについてシャムを上回る効果がみられました。PMID 34235343。PubMed 34235343

梨状筋の試験

週1回・計3回の施術にストレッチを併用し、1か月後と3か月後に評価しました。有効な治療どうしを比べた試験であり、同等性を示したものではありません。PMID 42291383。PubMed 42291383

頸部痛の試験

4週間で7回、複数の治療を組み合わせて受診。刺鍼を加えても、1年後までの成績はシャムを上回りませんでした。PMID 33383999。PubMed 33383999
§ 09

施術後のケア

無理のない範囲で動く

  • 取り決めた運動プログラムを、つらくない範囲で続けます。ストレッチは関係する可動域の制限に合わせて選び、心地よい範囲で行ってください。

局所の痛み

  • 治療後に、軽い局所の痛みや内出血が出ることがあります。落ち着いていくかどうかを見守り、痛みが強い、悪化している、あるいは想定していた局所の痛みとは違うと感じたときは、施術者に伝えてください。

負荷のかかる活動への復帰

  • 激しい活動は、治療した病態、現在の痛み、取り決めたリハビリテーション計画に合わせて調整します。

すぐに診察が必要な症状

  • 首・肩・胸のあたりへの刺鍼の後に、胸の痛み、息切れ、新たに続く咳が出た場合は、気胸の可能性があるため、すぐに診察を受けてください(症状が強いときは119番)。新たな筋力低下、広がっていくしびれ、発熱、局所の赤みの悪化も、診察が必要なサインです。PMID 38623313。
PubMed 38623313