股関節・大腿外側部の筋筋膜性疼痛を理解する

股関節・大腿外側部痛

股関節・大腿外側部痛

解剖と痛みのパターン概要

股関節外側や大腿外側の痛みは、整形外科でよくみられる相談の一つです。長らく「転子部滑液包炎」と説明されてきた病態ですが、超音波を用いた研究では真の滑液包炎がみられる例は限られており、殿筋の腱症や筋筋膜性のトリガーポイント、あるいはそれらの組み合わせが関与している可能性が指摘されています。Long ら (2013) による大転子部痛症候群877例の超音波検査では、孤立性滑液包炎はおよそ8%にとどまり、半数程度で殿筋腱症がみられたと報告されており、殿筋側の問題を丁寧に評価する意義が強調されてきています。

中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋・梨状筋に生じるトリガーポイントは、股関節外側の痛みに筋骨格系の側面から関与しうる代表的な要素として知られています。なかでも小殿筋は、股関節外側から大腿外側を経て足関節付近まで広がる関連痛を生じることがあり、いわゆる「偽坐骨神経痛」として腰椎由来の神経根症と混同されやすいパターンを示します。

筋筋膜性の関与と構造的な股関節病態の鑑別は、診療上とても大切です。変形性股関節症・関節唇損傷・大腿骨頭壊死などの真の関節疾患では、荷重で悪化する鼠径部深部の痛みや、内旋制限といった所見が中心となります。一方、筋筋膜性の股関節外側痛は、大転子の上方や後方に圧痛が局在し、機械的なひっかかりやロッキングを伴わないことが多いとされています。両者は併存しうるため、構造的所見があっても、筋筋膜性の要素にアプローチすることで症状が和らぐ場合は少なくありません。

「転子部滑液包炎」と呼ばれてきた症状は、画像で滑液包の炎症が確認できる例がむしろ限られ、その多くで殿筋の筋筋膜性疼痛や腱症が背景にある可能性が指摘されています。

解剖と主なトリガーポイント

股関節外側部には、歩行中の骨盤の安定、股関節外転のコントロール、片脚立位でのバランス維持に関わる複数の筋が層をなしています。これらの筋にトリガーポイントが生じると、それぞれの関連痛が重なり合い、大転子周囲疼痛症候群(GTPS)として知られる複合的な臨床像を形成しやすいといえます。

股関節・大腿外側部痛

股関節・大腿外側部痛

中殿筋
股関節外側、腸骨稜、仙骨 ― 滑液包炎と重なる像

中殿筋は股関節外転を担う主要な筋であり、片脚立位や歩行時の骨盤の安定に欠かせません。この筋に索状硬結(タイトバンド)やトリガーポイントが生じると、股関節外側の痛みの原因として比較的多く取り上げられ、後方の腸骨稜・仙骨周辺・大転子上にまで関連痛が広がることがあります。「転子部滑液包炎」「大転子周囲疼痛症候群(GTPS)」と呼ばれてきた症状の背景に、中殿筋の筋筋膜性の関与があるとする報告もみられます。

小殿筋
大腿外側から足関節付近 ― 偽坐骨神経痛様パターン

小殿筋は中殿筋の深層に位置し、股関節外転と内旋に関与しています。トリガーポイントが活性化すると、股関節外側から大腿外側を通り足関節付近まで広がる関連痛がみられることがあり、L5神経根症と類似した訴えとして観察されます。臨床ではいわゆる「偽坐骨神経痛」の代表例として取り上げられる筋の一つで、不必要な画像検査や外科紹介につながる前に、丁寧な触診で評価する価値があります。

大腿筋膜張筋(TFL)
股関節前外側およびITB領域

大腿筋膜張筋は上前腸骨棘から起始し、腸脛靱帯(ITB)に連続しています。トリガーポイントは股関節前外側、大転子の深部、そしてITBに沿って大腿外側に関連痛を及ぼすことがあります。中殿筋の関与と併存することが多く、患側を下にして就寝することがつらいと訴える患者さんでは、TFLの寄与が背景にある場合があります。

梨状筋
殿部深部から大腿後面への放散

梨状筋は深層の外旋筋で、坐骨神経と近接しています。トリガーポイントは殿部深部の痛みとして自覚され、股関節後方や大腿後面への関連痛を伴うことがあります。股関節後方関節包の病態や仙腸関節機能不全と紛らわしい所見となる場合があり、坐骨神経症状の一部に梨状筋の関与が指摘されてきた経緯もあります。

大殿筋
仙骨部・尾骨部・殿部深部の痛み

殿筋群のなかで最も大きく出力の大きい筋です。トリガーポイントが生じると、仙骨・尾骨・殿部深部に関連痛が現れることがあります。座位で楽な姿勢が見つけにくい、階段昇りで痛む、長時間の股関節屈曲位で殿部の鈍痛が強まるといった訴えがみられ、仙腸関節由来の痛みや尾骨痛と重なって解釈されることがあります。中殿筋・梨状筋の関与と併存しやすい点も覚えておきたいところです。

腰方形筋
腸骨稜、股関節外側、側腹部の痛み

腰方形筋は最下肋骨と腸骨稜をつなぐ筋で、骨盤の挙上や体幹の側屈に関わっています。股関節・大腿外側部の痛みという文脈では、腸骨稜・股関節外側・大転子周囲への関連痛を介して中殿筋のパターンと重なることがあります。痛みが側腹部のほうへ伸びる、あるいは側屈で誘発されるといった訴えがある場合に、関与を疑ってみるとよいでしょう。

外側広筋
股関節から膝にかけての大腿外側

外側広筋は大腿外側に位置する大腿四頭筋群最大の筋です。トリガーポイントは大転子付近から膝外側にかけて、大腿外側に沿った関連痛を生じることがあります。小殿筋の関連痛やITB症候群と重なり合うため、股関節から膝にかけて連続した痛みのバンドのように感じられる場合があります。階段の下降や長時間立位後に深い鈍痛として自覚されることが多いといえます。

腸腰筋
股関節前面、鼠径部、大腿前面深部

腸腰筋(大腰筋+腸骨筋)は主要な股関節屈筋です。トリガーポイントは股関節前面・鼠径部・大腿前面深部に関連痛を生じることがあります。股関節そのものの病態、鼠径ヘルニア、大腿神経の絞扼などと紛らわしい前方の痛み像を呈する場合があり、患者さんは体幹をやや前傾させ、患側股関節を軽く屈曲した姿勢をとることがあります。

股関節・大腿外側部痛の発生源
中殿筋

股関節外側・腸骨稜に関連痛を生じる主要な股関節外転筋で、転子部滑液包炎と重なる症状の背景に関与しやすい筋です。

小殿筋

股関節外側から足関節付近まで広がる、L5神経根症と紛らわしい偽坐骨神経痛様の関連痛を生じることがあります。

大腿筋膜張筋

ITBに連続する股関節前面の筋で、股関節前外側から大腿外側に沿って関連痛を生じます。

梨状筋

深層の外旋筋で、殿部から大腿後面に放散する痛みに関与し、坐骨神経症状の一部に関わると指摘されてきた筋です。

関連痛パターン

股関節周囲の各筋がもつ関連痛のパターンを理解することは、正確な評価に欠かせません。なかでも小殿筋の関連痛は腰椎神経根症と紛らわしいことが多く、不要なMRIや外科紹介につながらないよう、しっかり認識しておきたいパターンです。

中殿筋

腸骨稜後方・仙骨・大転子上を中心に、股関節外側に沿って関連痛が広がります。大腿外側上部にまで及ぶこともあり、転子部滑液包炎と解釈されてきたパターンと重なることが多いといえます。患側を下にした側臥位、長時間の立位、不整地での歩行で症状が強まる傾向があります。

小殿筋

股関節外側から大腿外側・後外側を経て、下腿や足関節付近まで関連痛が広がるパターンです。問診のみではL4-L5あるいはL5-S1の神経根症と区別がつきにくいことがあります。鑑別の鍵は、皮膚分節に沿った感覚障害・反射の変化・運動麻痺といった真の神経根圧迫を示す所見の有無であり、これらが伴わない場合には筋筋膜性の関与を考えやすくなります。

大腿筋膜張筋

大転子の深部にあたる股関節前外側に関連痛が広がり、ITBに沿って遠位に伸びることがあります。中殿筋の関連痛の前方成分や、ITB摩擦症候群の近位部と重なるため、股関節外側の痛みは複数の筋筋膜性要因が絡んだ複合的な像を呈しやすい部位といえます。

梨状筋

殿部から大腿後面、近位の下腿にかけて関連痛が広がります。椎間板ヘルニアによるS1神経根症と紛らわしい場合があり、緊張の強い梨状筋が坐骨神経を機械的に刺激していると、しびれ・刺痛・筋力低下といった神経学的所見が混在することもあります。

外側広筋

大転子付近から膝外側にかけて、大腿中央外側に重みを感じる関連痛が広がります。ITB症候群や外側大腿皮神経の絞扼(異感性大腿神経痛)と混同されやすく、階段の下降や長時間立位で症状が強まる傾向があります。

セルフチェック

以下のテストは、股関節・大腿外側部痛に対する筋筋膜性の関与を把握し、構造的な股関節病変・真の神経根症・滑液包炎との鑑別を進めていくうえでの手がかりとなります。

検査

側臥位での中殿筋触診

方法 →
症状のない側を下にして横向きになり、上側の股関節を軽く屈曲します。母指または肘で大転子のすぐ上後方から腸骨に向かってしっかり押し込み、腸骨稜から大転子までを丁寧に探っていきます。明らかな圧痛点で、ふだんの股関節外側痛が再現され、仙骨側や大腿側に放散するようであれば、中殿筋のトリガーポイントの関与が示唆されます。
陽性所見 →
陽性所見: 股関節外側痛が再現され、仙骨方向や大腿への放散を伴う
検査

小殿筋の深部触診

方法 →
同じ側臥位で、大転子のすぐ上、やや前方を狙って中殿筋の深層に向かって圧を加えます。小殿筋は深部にあるため、ある程度の持続圧が必要となります。患者さんがふだん経験している大腿外側から下腿への痛み(偽坐骨神経痛様のパターン)が再現されれば、関与の手がかりとなります。
陽性所見 →
陽性所見: 膝や足関節方向へ広がる大腿外側痛が再現される
検査

片脚立位テスト(トレンデレンブルク徴候)

方法 →
患側で片脚立位を30秒ほど保ち、鏡などで骨盤の傾きを観察します。反対側の骨盤が水平より下がる場合(陽性トレンデレンブルク徴候)は、中殿筋の機能低下が示唆されます。明らかな骨盤下降がなくても、テスト中に痛みが再現される場合には、殿筋のトリガーポイントや股関節安定筋の機能不全を考える手がかりとなります。
陽性所見 →
陽性所見: 骨盤の下降、痛みの再現、または30秒間の片脚立位の維持困難
検査

FABERテスト(パトリックテスト)

方法 →
仰向けで、患側の足を反対側の膝の上に置く「4の字」の姿勢をとります。反対側の骨盤を支えながら、テスト側の膝を床方向にゆっくり押していきます。股関節・仙腸関節に負荷がかかり、外旋筋がストレッチされる動きです。股関節外側の痛みが再現される場合は殿筋やTFLの筋筋膜性の関与、鼠径部前面の痛みは股関節そのものの病態、仙腸関節後方の痛みは仙腸関節機能不全を示唆する場合があります。
陽性所見 →
陽性所見: 股関節外側痛は殿筋トリガーポイントを、鼠径部痛は股関節病変を示唆
検査

オーバーテスト(ITB/TFLの緊張評価)

方法 →
症状のない側を下にして横向きに寝て、下側の股関節と膝を屈曲させて姿勢を安定させます。検者(あるいはセラピーバンドを用いてご自身で)上側の脚を体の後方へ伸展・内転させ、ゆっくりと床方向に下ろしていきます。脚が床面まで下りきらず高い位置にとどまる場合は、ITBおよびTFLの緊張が示唆され、TFLのトリガーポイントの関与と矛盾しません。テスト中に出現する痛みの部位は、関与している筋筋膜性の発生源を絞り込む参考になります。
陽性所見 →
陽性所見: 脚がテーブル面まで下がらず、股関節外側または大腿外側痛が再現される

治療の道筋

殿筋の筋筋膜性疼痛のマネジメントでは、的を絞ったトリガーポイントリリース、ストレッチ、股関節外転筋の段階的強化を組み合わせていくのが基本です。なかでもリハビリテーションの要素は重要で、中殿筋の機能を回復させなければ、過負荷とトリガーポイントの再活性化を繰り返しやすくなります。

治療経路

治療経路

メカニズム図

セルフケア

  • 中殿筋・TFL・ITB領域のフォームローリング ― 1部位あたり60〜90秒を目安にゆっくりと圧をかけ、大転子そのものへの直接圧迫は避ける
  • 小殿筋へのテニスボールやラクロスボールを用いたセルフリリース ― 大転子のすぐ上、やや前方の位置を狙い、壁を使って体重をのせる
  • 梨状筋ストレッチ(4の字ストレッチ)と殿筋全体のストレッチを、30秒×3回・1日2回を目安に
  • 就寝時は両膝の間に固めの枕を挟み、股関節内転による股関節外側組織への圧迫を避ける
  • 脚を組む姿勢、片脚に体重をのせ続ける立位、繰り返しの骨盤挙上は、殿筋の負担を持続させる要因となるため控えめに

徒手療法

  • 中殿筋・小殿筋・TFLのトリガーポイントに対する虚血性圧迫・持続圧によるリリース
  • 大転子そのものへの過度な圧迫を避けつつ、殿部後方・外側を中心とした深部組織への徒手アプローチ
  • 中殿筋・梨状筋・TFLに対する筋エネルギーテクニックを通じて、筋長の回復とトリガーポイント活動の軽減を図る
  • 股関節から膝へと続く外側の筋膜ラインに対する筋膜リリースで、連続性のある緊張を緩める
  • 股関節や仙腸関節の可動性低下が殿筋の負担を強めている場合の関節モビライゼーション

介入的治療

  • 徒手療法だけでは反応が不十分な場合の中殿筋・小殿筋トリガーポイントへのドライニードリング
  • 速やかな疼痛緩和を狙った中殿筋・TFLへのリドカイン注射
  • 深部に位置する小殿筋に対しては、超音波ガイド下のニードリングが選択肢の一つとして挙げられます
  • 画像検査で明確な滑液包炎が確認された場合に限った、転子部滑液包へのステロイド注射

リハビリテーション

  • 股関節外転筋の段階的強化 ― 側臥位での股関節外転、クラムシェル、立位でのバンド外転など
  • 中殿筋の神経筋コントロール改善のための片脚バランス練習
  • トレンデレンブルク様のパターンや、立脚期での過度な股関節内転を減らすための歩行再教育
  • 中殿筋・腰方形筋・体幹側方筋を含む側方安定化の連鎖を意識した体幹トレーニング
  • 症状の改善に応じて、患側を下にした側臥位睡眠・長時間歩行・階段昇降など、ふだんつらかった動作へ段階的に戻していく
§ 速やかに受診をご検討ください

危険な兆候:すぐに受診すべきとき

股関節・大腿外側部の痛みを筋筋膜性のものと判断する前に、緊急の評価が望ましい所見がないかを確認しておくと安心です。

まとめ
  1. 股関節外側の痛みは「転子部滑液包炎」と診断されてきた歴史がありますが、Long et al.(2013)の超音波研究では、孤立した滑液包炎は症例のごく一部にすぎず、殿筋の腱症や筋筋膜性の関与が背景にある例が多いことが示されています。

  2. 小殿筋のトリガーポイントは、股関節外側から大腿外側、ときに足関節付近まで広がる関連痛を呈し、いわゆる偽坐骨神経痛として腰椎由来の症状と紛らわしい像をつくることがあります。

  3. 真の神経根症と殿筋由来の偽坐骨神経痛を見分ける鍵は、神経学的所見の有無です。皮膚分節に沿った感覚障害、反射の変化、進行する運動麻痺がある場合には、脊椎の画像検査が望まれます。

  4. 夜間に患側を下にして眠れないという訴えは、殿筋の筋筋膜性疼痛で経験されやすい所見です。両膝の間にクッションを挟む、マットレスの硬さを見直す、といった工夫が治療計画の一部として役立ちます。

  5. 治療では、フォームローリング・テニスボールなどのセルフリリースと、的を絞ったストレッチ、股関節外転筋の段階的強化を組み合わせるのが基本です。反応が乏しい場合には、中殿筋・小殿筋へのドライニードリングが選択肢となります。

  6. 股関節外側や大腿外側の痛みで画像検査を急ぐ前に、まず殿筋を丁寧に触診してみることをお勧めします。数分の評価で、何ヵ月もの不要な検査を回避できる場合があります。