「広がる痛み」の基本的な考え方

なぜ痛みは広がるのか

なぜ痛みは広がるのか

解剖と関連痛パターンの概要

多くの方は、痛みを感じる場所こそが問題の起きている場所だと考えがちです。多くの場合それは正しいのですが、筋に関連する痛みでは必ずしもそうとは限りません。

関連痛は実際にある臨床現象ですが、特定の診断を裏づける決め手としてではなく、あくまで一つの手がかりとして扱うことが大切です。

頸部のトリガーポイントが 頭痛の一因となることがあります。 肩甲骨周辺のトリガーポイントから 腕の痛みが生じる場合もあります。 股関節のトリガーポイントが 下肢に向かう痛みにつながることもあります。こうしたパターンは一般に 関連痛と呼ばれています。

関連痛とは、感じておられる痛みは確かに本物ですが、その痛みを生み出している構造は別の場所にあるかもしれない、という考え方です。最初のうちパターンが分かりにくく、紛らわしく感じられる理由の一つでもあります。

一つの例えとして

システムのある部分に問題があり、症状は別の部分に現れている——そうした状況をイメージしてください。症状の場所は重要な情報ですが、それだけでもとの発生源を特定できるとは限りません。

関連痛が生じる仕組み

関連痛の仕組み

関連痛の仕組み

模式図

痛みの場所が誤認されることがあります

よく用いられる説明の一つに「収束(コンバージェンス)」という考え方があります。異なる組織からの感覚入力が、脊髄レベルで重なり合う経路を通ると考えられており、その結果、本来とは異なる場所からの痛みとして脳が解釈する場合があるとされています。 収束(コンバージェンス)。これは痛みが「気のせい」だという意味ではなく、神経系がいつも完璧に痛みの位置を特定できるわけではない、ということを示しています。

トリガーポイント(発生源の候補)
?
脊髄(共有された経路)
脳(位置の誤認の可能性)

異なる領域からの入力が共通の経路に流入することがあり、それが、痛みが発生源から離れた場所で感じられる現象の理解に役立つと考えられています。

よく見られる関連痛のパターン

臨床的に紛らわしくなりやすい例です。痛みのある場所と発生源が一致しない場合、特に注意が必要です。

🤯

頸部・肩からくる頭痛のような症状

肩の上から首にかけての領域にあるトリガーポイントが、こめかみや眼の周辺で感じる痛みと似た感覚を再現することが、患者さんによっては報告されています。

上部僧帽筋こめかみや眼の奥
誤診されることのある状態: 緊張型頭痛
🦷

歯科的所見が乏しい歯の痛み

顎周囲の筋にあるトリガーポイントが、歯そのものが主要な発生源ではない場合でも、深い歯痛様の関連痛として感じられることがあります。

咬筋・側頭筋上下の歯
誤診されることのある状態: 歯科疾患
🦐

胸部や肩甲帯から腕に広がる症状

胸壁や肩甲帯の筋が、姿勢の影響や胸郭出口に関連する状況で、腕に向かう症状の一因となる場合があります。

小胸筋腕のしびれや重だるさ
誤診されることのある状態: 末梢神経の絞扼障害
🦵

椎間板所見では説明しきれない坐骨神経痛様の痛み

股関節周囲の一部の筋が、坐骨神経痛様の症状と重なる関連痛を下肢に送ることがあります。神経学的・脊椎の評価をきちんと行うことは引き続き重要です。

小殿筋下肢に向かう痛み
誤診されることのある状態: 椎間板ヘルニア
❤️

不安を感じさせる胸の痛み

胸壁の筋肉から、強く不安を感じさせる痛みのパターンが生じることがあります。胸の痛みについては、筋・骨格由来と判断する前にまず医学的な評価を受けてください。

大胸筋胸部、ときに腕に広がる痛み
誤診されることのある状態: 心臓発作

臨床で言う「ジャンプサイン」とは

医療者が活動性のトリガーポイントを圧迫すると、患者さんが反射的にひるむような反応を示されることがあります。これがいわゆるジャンプサインと呼ばれる所見です。 ジャンプサインと呼ばれます。

ただし、これだけで診断が確定するわけではありません。診察として有用なのは、その圧迫によっていつもの痛みのパターンが分かる形で再現されたときです。とくに、その再現される痛みが、患者さんが日頃から経験されている症状と一致する場合に手がかりとなります。

つまり、押して痛いこと自体に診断的価値があるわけではありません。価値があるのは、ある特定の点を押すことで、患者さんがよく知っているいつもの痛みが再現される場合です。

なぜこれが大切なのか

医療者が特定の筋肉の点を押して、患者さんが普段感じているのと同じ痛みのパターンが安定して再現される場合、その筋が臨床的に関与している可能性を示す手がかりとなります。あくまで複数の手がかりの一つであり、これだけで決まるものではありません。

痛みはどこまで広がりうるのか

関連痛の広がる距離は、筋によっても、また患者さんによっても差があります。近い範囲にしか及ばない筋もあれば、発生源からかなり離れた場所まで痛みが及ぶ筋もあります。

頭部の筋通常は頭部や顔面の範囲にとどまります近い

側頭筋からこめかみや歯の周辺へ関連痛が及ぶことがあります

頸部の筋頭部、顔面、または腕中等度

胸鎖乳突筋(SCM)から前頭部・眼・耳・顔面に関連痛が及ぶことがあります

肩の筋腕や上胸部遠い

棘下筋から肩・腕にかけて関連痛が及ぶことがあります

背部の筋体幹を回り込むこともあります中等度

胸郭周囲の筋が肋骨周辺や胸壁に関連痛を送ることがあります

股関節の筋下肢に及ぶことがありますかなり遠い

殿部の筋から股関節を大きく超えて広がる関連痛が報告されています

実際に押さえておきたい点: 関連痛が長い距離にわたることもあり、それが、筋由来の痛みが神経や脊椎の問題のように見えてしまう一因とされています。だからこそ、適切な鑑別診断が重要になります。

サテライト・トリガーポイント

臨床ではしばしば、活動性のトリガーポイントが近隣の領域に負荷や感受性の上昇をもたらし、時間の経過とともにその領域にも別の圧痛点が形成されるという考え方が用いられています。これらは サテライト・トリガーポイントと呼ばれることがあります。

この概念は、痛みが時間とともに広がったり、より複雑になったりする経過を説明するうえで役に立ちます。ただし、すべての患者さんで完全に測定可能な連鎖反応として起こるわけではなく、有用な臨床モデルとして扱うのが妥当でしょう。

パターンが広がっていく流れ

一次
トリガーポイント
関連痛
ゾーン
サテライト
トリガーポイント
新たな関連痛
ゾーン

当初のパターンの周囲に二次的な痛みのある領域が形成されると、時間とともに痛みの様相が複雑になっていくことがあります。

これが大切な理由: 痛みが少しずつ別の場所にも広がってきたと感じられる場合、毎回まったく別の問題が起きているのではなく、代償や感作の連鎖が広い範囲で関与している可能性があります。

発生源が見つけにくいことがある理由

筋由来の関連痛は見つけにくいことが少なくありません。通常の画像検査は、骨折、椎間板の病態、関節症、大きな腱損傷といった構造的な問題を捉えることに主眼が置かれており、トリガーポイントそのものを評価する目的では作られていないためです。

見つけにくいというのは、痛みが哲学的に「目に見えない」という意味ではありません。問診、触診、動作の評価、パターンの読み取りといった臨床的な情報のほうが、画像検査だけよりも有用な手がかりになることが多い、ということを意味しています。

パターンに基づく診断

臨床的に判断されることが多いとされています

他の診断と重なりやすい

よく知られた疾患と症状が重なることがあります

画像には通常映らない

トリガーポイントは画像所見ではありません

心当たりがある場合に検討したいこと

症状のパターンが分かりにくい、場所が変わる、画像所見と一致しないと感じられる場合、関連痛として筋由来の要素が関わっている可能性についてご相談ください。同時に、ほかの鑑別診断の可能性も引き続き考えておくことが大切です。

これからの進め方

関連痛について知ることは、症状の発生源についての考え方を整理するうえで役立ちます。早合点ではなく、より丁寧な評価につなげるための土台と捉えてください。

1

痛みを書き留めてみる

どこに痛みが出るか、いつ広がるか、どの動作や圧迫で再現されるように感じるかを、できる範囲で記録してみてください。

2

痛みのある場所だけにとらわれない

当サイトの 疼痛部位検索ツール を使い、痛みを感じる領域に関連すると考えられている筋や部位を確認してみてください。

3

適切な評価を受ける

熟練した医療者であれば、特定の構造を圧迫したときに、いつもの痛みのパターンが再現されるかどうかを確かめることができます。 診断の流れについても、よろしければご覧ください。

4

パターンを治療の方針づくりに活かす

発生源の見当がついてくると、関与する筋・動作パターン・体のシステムに焦点を絞って治療を進めやすくなります。 関連資料と人体マップもご活用ください。

さらに学ぶ

痛みが広がる背景にあると考えられているもの
経路の収束

異なる部位からの感覚経路が脊髄レベルで重なり合うことがあり、痛みの場所の特定があいまいになる場合があります。

中枢性感作と呼ばれる現象

長く続く痛みのもとでは、神経系の処理がより敏感になることがあるとされており、痛みの範囲がより広く、強く感じられる場合があります。

サテライト・トリガーポイント

当初のパターンによって負荷を受けてきた領域に、時間の経過とともに二次的な圧痛点が形成されることがあると考えられています。

筋膜・動作のつながり

機械的なつながりや代償的な動作のパターンが、痛みが一つの小さな領域を超えて広がっていく一因として議論されています。