癒着性肩関節包炎を理解する
癒着性肩関節包炎は、いわゆる「五十肩」「四十肩」として知られる病態で、肩の自動・他動運動がいずれも全方向性に制限されていく経過をたどるとされています。病理学的には、関節包の線維芽細胞増殖と多巣性の肥厚が関与すると考えられており、肩甲上腕関節の腔が狭くなる方向に変化します。臨床経過は、痛みが前面に出る凍結期、硬さが前面に出る拘縮期、そして可動域が戻ってくる解凍期に分けて説明されることが多いといえます。糖尿病や甲状腺機能異常との関連が観察的研究で指摘されており、これらをお持ちの方では経過がより長引きやすい傾向があるとされています。
癒着性肩関節包炎の臨床像は、肩周囲の重度な筋筋膜性疼痛症候群(MPS)と重なって現れる場面が少なくありません。凍結期の強い痛みは、肩甲下筋・小胸筋・棘下筋を中心とした防御的な筋緊張を引き起こしやすく、この緊張がさらに痛みを強めるだけでなく、関節の動きを慢性的に狭めることで関節包の拘縮を後押しする可能性も指摘されています。また、肩甲下筋のトリガーポイントは外旋を強く制限することがあり、それだけで真の五十肩の可動パターンとよく似た所見を呈する場合があるため、初期診断では注意が必要です。
肩の動きにくさを前にしたとき、関節包そのものの制限なのか、痛みによる筋の防御的緊張なのかを見分けることが、肩のリハビリの出発点となります。
関節包そのものの制限と、二次的な筋筋膜性の制限を見分けるには、丁寧な臨床評価が欠かせません。真の癒着性肩関節包炎の特徴とされるのは、他動可動域、特に外旋の比例的な低下と、終末域での硬く革のような抵抗感です。これに対して、トリガーポイントが主体の制限では、終末域がやや弾性のある筋性の感触となり、軟部組織へのリリースやトリガーポイント注射のあとに他動可動域が大きく改善することがあります。現行の診療では、関節包の炎症と二次的な筋筋膜性の変化の両方に目を向ける、複合的なアプローチが推奨されることが一般的です。
True Frozen Shoulder vs Myofascial Mimic
Passive external rotation
Pattern of motion loss
Course over time
First-line treatment
筋筋膜性の重なりと解剖
肩甲上腕関節は、可動性のための関節包の柔軟性と、安定性のための筋制御との繊細なバランスの上に成り立っています。癒着性肩関節包炎では関節包が肥厚し上腕骨解剖頸部に癒着することで、周囲の筋の働き方も大きく変化していきます。
肩甲下筋は肩関節の主要な内旋筋で、ここに索状硬結(タイトバンド)やトリガーポイントが生じると、外旋が大きく制限される場合があります。その所見は癒着性肩関節包炎にみられる関節包性の可動制限と臨床的によく似ており、特に凍結期から拘縮期にかけて、防御的な筋緊張として併存することが少なくありません。
棘下筋は主要な外旋筋で、癒着性肩関節包炎では肩甲下筋の短縮に対して持続的に伸張される位置に置かれやすく、二次的にトリガーポイントが形成される場合があります。関連痛は肩前方の関節深部に投射されることが多く、患者さんは「関節そのものの痛み」と受け止めやすい部位です。
大円筋は広背筋と協働して内旋・内転を補助する筋です。ここに筋筋膜性の制限が生じると、挙上や外転の終末域が狭まり、いわゆる五十肩でみられる全方向性の可動域低下に寄与する場合があります。
肩の痛みを抱える方では、痛みを避けるように肩を前へ巻き込んだ姿勢を取り続ける傾向があり、結果として小胸筋が短縮位に固定されやすくなります。肩甲骨の前方傾斜が強まると肩峰下スペースが狭まり、機能的なリーチが制限されるため、リハビリの進行を妨げる要因の一つとなることがあります。
三角筋自体が一次病変の中心となることはまれですが、回旋筋腱板や関節包からの関連痛が投射される代表的な部位です。関節可動域が制限されている状況で代償的な挙上が続くと、二次的にトリガーポイントが形成される場合もあります。
第1相:凍結期
肩全体に広がる強い痛み、特に夜間痛が前面に出る時期です。可動域制限も出始めますが、まずは痛みが行動を制限する主因となります。期間には個人差があります。
第2相:拘縮期
安静時の痛みは徐々に和らいでいきますが、可動域制限が前面に出る時期です。日常動作への影響が大きく、結髪・結帯・更衣などに支障が出やすくなります。
第3相:解凍期
可動域が少しずつ戻ってくる時期です。痛みは軽度にとどまり、終末域での違和感が中心となるのが一般的とされています。
筋筋膜性の重なり
いずれの相でも、回旋筋腱板や肩甲骨周囲筋に二次的なトリガーポイントが生じやすく、痛みの体験や動作のしづらさを後押しすることがあります。
関連痛のパターン
癒着性肩関節包炎の痛みは、初めは漠然とした広がりを示すことが多いとされます。経過の中で二次的な筋筋膜性のトリガーポイントが加わると、患者さんが「関節や神経の損傷」と受け止めやすい、特定で予測可能な関連痛のパターンが現れる場合があります。
肩甲下筋
棘下筋
小胸筋
臨床評価
臨床評価では、関節包性の硬さと筋性の防御的緊張を区別し、構造的な腱板病変を除外することが目的となります。以下の評価は、可動域低下の主要な原因がどこにあるかを絞り込む手がかりとなります。
他動外旋テスト
Apleyスクラッチテスト
肩甲下筋の触診
有痛弧の観察
エビデンスに基づくマネジメント
癒着性肩関節包炎のマネジメントは、病期に応じて推奨される介入が大きく異なります。解凍期に有効とされる介入であっても、急性の凍結期に行うと症状を強めてしまう場合があるため、現在の病期の見極めが大切です。
セルフケア
- 痛みの許容範囲内で、こまやかに優しく可動域運動を繰り返す
- ストレッチ前に蒸しタオルなどで温めて組織の伸びやすさを高める
- 就寝時は枕やクッションで患側の腕を支え、肩への負担を減らす
- 頭上での力を入れた動作や強い手伸ばし動作は控えめにする
- 活動後に痛みが強まったときには、短時間のアイシングを取り入れる
徒手療法
- 凍結期には、痛みの軽減を目的とした低強度の関節モビライゼーション
- 解凍期には、可動域の回復を目的としたより積極的な関節モビライゼーション
- 肩甲下筋・棘下筋のトリガーポイントに対する持続圧によるリリース
- 代償的な動作を整える目的での肩甲胸郭関節のモビライゼーション
- 肩甲骨の前方傾斜を軽減するための小胸筋への軟部組織アプローチ
介入的治療
- 関節内ステロイド注射(凍結期早期で検討されることが多い選択肢の一つ)
- サイレントマニピュレーションや関節包拡張術(パンピング療法)など、拘縮した関節包の伸張を目的とした手技
- 徒手療法に反応しにくい肩甲下筋・棘下筋のトリガーポイントへの注射
- 夜間痛が強く保存的治療で改善しない場合の肩甲上神経ブロック
- 保存療法に十分な反応が得られない凍結期症例に対する関節授動術
リハビリテーション
- 棒体操(ワンドエクササイズ)など、他動および自動介助下での段階的なストレッチ
- 痛みのない可動域内での回旋筋腱板の等尺性収縮トレーニング
- 肩峰下スペースの二次的狭小化を防ぐための肩甲骨安定化エクササイズ
- 耐えられる範囲でのスリーパーストレッチなど、後方関節包のストレッチ
- 解凍期に合わせて、頭上での日常動作へ段階的に復帰していく
注意すべきサインと鑑別
肩の硬さは癒着性肩関節包炎で多くみられる症状ですが、まれに重大な病態が同様の所見を呈することがあります。以下のサインがある場合には、早めに医療機関での評価をお勧めします。
癒着性肩関節包炎は、痛みが前面に出る凍結期、可動域制限が前面に出る拘縮期、そして回復していく解凍期という三相を経るとされていますが、各相の境界や期間には個人差が大きいといえます。
他動外旋の著明な制限と、終末域での硬く革のような抵抗感は、関節包性の制限を示唆する手がかりとなります。
肩甲下筋のトリガーポイントは外旋を強く制限することがあり、初期の癒着性肩関節包炎の臨床像とよく似た所見を呈する場合があります。
糖尿病や甲状腺疾患をお持ちの方では、癒着性肩関節包炎の発症および経過の遷延化との関連が指摘されています。
凍結期早期の関節内ステロイド注射は、痛みの軽減と症状の遷延を抑える目的で選択肢の一つとなることが多いとされています。
炎症が強い凍結期に強引なストレッチを行うと症状が悪化することがあり、痛みのない範囲での穏やかな運動から始めるのが一般的に望ましいとされています。
運動療法
五十肩(癒着性肩関節包炎)のための運動プログラム
ここでは、本症状に関わる筋肉や動作パターンに焦点を当てた、エビデンスに基づく運動をご紹介します。まずは2〜3種目から始め、痛みの状況を見ながら無理のない範囲で進めていきましょう。









