やさしい触診でわかること

筋の診察で用いる、平らに当てる触れ方とつまむ触れ方のイラスト

筋の診察で用いる、平らに当てる触れ方とつまむ触れ方のイラスト

Flat Palpation vs. Pincer Palpation Technique Overview

やさしく触れてみることで、いつもの痛みをどこに感じるのか、浅いところにある筋が敏感になっているのかを説明しやすくなることがあります。まずは症状と、それによって制限されている活動から考えましょう。適切な運動を始めたり受診したりする前に、「しこり」を見つけておく必要はありません。

触診は、臨床の診察の一部にすぎません。医療者は問診の内容に、動作、負荷、関節の動く範囲、神経学的所見を組み合わせ、そのうえで筋に触れたときに、患者さんがよく知っている症状が再現されるかを確かめます。硬さや圧痛だけでは、それが唯一の痛みの原因だとは判断できません。

アトラスには一般によく記載される位置が示されていますが、症状の出方は人によって異なります。図を再現しようとするのではなく、実際に感じていることを記録しましょう。トリガーポイントに関する国際的なコンセンサスでも、決まった位置や、離れた場所への関連痛の範囲は必須の条件とされていません。

セルフチェックは、短く、心地よい範囲にとどめましょう。かえって痛みが増したり、症状のことばかり気になったりするなら、無理に続けず、動きを中心とした計画に沿って進めてください。トリガーポイントを正確に自己診断できるようになるまでの期限にエビデンスはなく、組織の状態を毎日チェックする必要もありません。

触診の基本

ここに挙げる観察のポイントは、触れて感じることと、それが意味するかもしれないことを、分けて考えるためのものです。深い位置の筋、見覚えのないしこり、傷つきやすい神経や血管がある部位では、別の診察方法が必要です。

触れてわかる筋の所見と、訴えのある痛みの分布を示すイラスト

触れてわかる筋の所見と、訴えのある痛みの分布を示すイラスト

Taut Band, Nodule, and Referred Pain Anatomy

索状硬結は診察所見の一つ

触れてわかることを言葉にする

リラックスした状態で触れやすい筋腹の上を、線維を横切るように指を動かすと、医療者はやや硬い筋(すじ)を感じ取ることがあります。触れてわかる索状硬結(タイトバンド)、限局した過敏さ、そして「いつもの症状」は、いずれも診察の判断材料になります。ただし、腱も硬く感じられ、筋が収縮すると一緒に動くため、手触りだけでトリガーポイントを見分けることはできません。索状硬結をはじいたり、ピクッとした反応(局所単収縮反応)を引き出したりする必要はありません。

圧痛と、心地よい圧の強さ

痛みを追いかけず、反応に気づく

浅いところにある、なじみのある筋に、指の腹で軽く触れてみます。いつもの鈍い痛みが再現されるかどうかに気づいたら、そこで手を離しましょう。思わず体がビクッとする、強い痛みが出る、気分が悪くなるといった反応は、診断を確かめるテストではありません。電気が走るような痛み、広がっていくピリピリ感やしびれが出たら、直ちに圧を抜いてください。圧痛閾値とは、較正された器具を使って測定する診察上の指標です。ご自分で点数をつけた痛みの強さは、加えた力の大きさを表すものではありません。

いつもの症状に気づく

実際に症状が出る範囲を記録する

押したときに、ご自分がよく知っている症状がその場所、あるいは離れた場所に出てくるかどうかを、言葉にしてみましょう。役に立つようなら、実際に症状が出る範囲を図に書き込みます。その場所がアトラスと一致している必要はありません。関連痛のマップは診察の方向づけには役立ちますが、原因を確定することも、神経・腱・関節・歯の問題を除外することもできません。

触ってわかること、わからないこと

感覚と診断を分けて考える

皮膚、脂肪、筋、腱、骨の手触りは、場所や姿勢によって変わります。痛みや硬さがあるというだけでは、炎症、線維化、組織の損傷、あるいは回復の有無はわかりません。見覚えのないしこり、熱感、腫れがあれば、医療機関で評価を受けてください。トリガーポイントを正確に自己診断できるようになるための、「4〜6週間」といった決まった練習スケジュールは確立していません。

触れやすい部位を選ぶ

深い部位は医療者の評価に任せる

首の前側や横、わきの下、足の付け根(鼠径部)、お腹、膝の裏を強く押すのは避けましょう。脈打っている部分や、原因のわからないしこりも押さないでください。股関節の深層にある回旋筋群や腰方形筋は、上にある組織越しに強く押しても、確実に狙い分けることはできません。傷や感染のある皮膚、新たに腫れた部位やけがをした部位にも触れないようにします。

エビデンスが支持していること

2018年に60人の専門家が参加した国際デルファイ研究では、触れてわかる索状硬結、過敏な点、関連する症状の組み合わせが提案されました。患者さんのいつもの症状が再現されることは、活動性の臨床像を見分ける手がかりになります。これは専門家の合意であり、自己診断の妥当性を裏づけたものではありません。一次資料:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29025044/

同じコンセンサスでは、トリガーポイントの位置や関連痛の範囲が決まっていると考えるべきではないとされています。いつもの症状は、その場所に出ることもあれば、離れた場所に広がることもあり、その説明はほかの診察所見と並べて検討されるべきものです。ジャンプサイン、電気が走るような感覚、痛みの強さのいずれも、診断を確定するものではありません。

ご自身が知っている症状を、そのまま説明してください。マップに合わせる必要はありません。

触れてわかる所見

確認できる場合は、索状硬結と限局した過敏さを記録

いつもの症状

その反応が、いつもの訴えと一致するかを尋ねる

臨床の文脈

触診を、動作や神経学的所見と組み合わせる

観察と機能の見直し

以下のステップは、症状を説明し、関係する活動の経過を追うためのものです。あくまで観察であり、ご自分で診断するためのテストではありません。

役に立つ目標を決める

触れる前に、症状と機能を確認

まずは、ご自身にとって大切な動作から始めましょう。首を回す、手を伸ばす、噛む、歩くといった動作です。いつも痛む場所と、何をすると痛みが変わるかをメモしておきます。やさしく触れてみるかどうかは任意です。何度も確かめることで痛みが増したり不安が強まったりするなら、やめておきましょう。広い範囲に圧痛がある場合は、無理のない活動に重点を置き、ご自分に合った計画について医療者と相談するきっかけにしてください。

触れやすい浅い目印

やさしい位置確認の練習

僧帽筋上部では、前腕を支えた状態で、肩の外側と首の間にある浅い盛り上がりを確かめます。首の前側の三角形の部分には押し込まないでください。前脛骨筋では、脚を支えて座り、つま先側をそっと持ち上げると、すねの骨のすぐ外側に筋が浮き上がるのがわかります。いったん力を抜いてから、軽く触れてみましょう。すねの骨の縁の上は避け、心地よい範囲の反応にとどめます。しこりや関連痛パターンが見つからなくても、まったく問題ありません。

症状メモをつくる

ご自身の実際の痛みのパターン

いつもの痛みを感じる場所と、やさしく触れたときに同じ痛みが再現された場所を、分けて書き込みます。鈍い痛み、焼けるような痛み、ピリピリ感など、感じ方をご自分の言葉で表し、手を離したあとに治まったかどうかも記録しておきましょう。図を完成させるために何度も痛みを引き出したり、アトラスに合わせて書き換えたりはしないでください。症状を説明する助けになるなら、受診の際にメモを持参しましょう。

日常の動作を見直す

役に立つ変化を測る

同じ無理のない動作を、似た条件で繰り返してみます。座っていられる時間(分)、棚に手を伸ばす動作、食事のしやすさなどです。圧痛が軽くなった部位を記録してもかまいませんが、それよりも、眠りやすさ、動きやすさ、活動のしやすさが改善したかどうかのほうが役に立ちます。新たにしびれが出た場合、それは「うまくほぐれた」証拠ではありません。

症状から、役に立つ計画へ

心地よく触れるのは、解剖的に触れやすい部位に限りましょう。得られた所見を運動や活動の調整、追加の評価へとつなげるうえでは、医療者が手助けしてくれます。

やさしい観察から始める

短時間の確認は、なじみのある症状を言葉にするのに役立ちます。毎日決まった練習スケジュールや、目標とする圧の強さはありません。

  • 触れやすい筋を一つ選び、楽な姿勢で支えて力を抜く
  • 指の腹を広く当て、軽く耐えられる程度の過敏さを感じたらそこで止める
  • いつもの症状に気づいたら、反応が出るまで押し続けずに手を離す
  • けがをしたばかりの部位、腫れている部位、いつになく敏感な部位では圧をかけない
  • 楽にしたい活動のほうへ、意識を戻す

医療者が目印をどう使うか

筋ごとの解説ページには、姿勢、近くにある構造、診察の限界がまとめられています。臨床での触診は、動作や負荷の評価とあわせて行われます。

  • 僧帽筋上部:腕を支えて力を抜いた状態で上部線維の盛り上がりを診察し、首の前側の三角形の部分(前頸三角)と区別する
  • 肩甲挙筋:肩甲棘、続いて肩甲骨の上内側の縁を確認する。上に僧帽筋が重なるため、この筋だけを分けて触れるには限界がある
  • 棘下筋:肩甲棘と棘下窩を確認し、いつもの痛みを、抵抗をかけて外旋したときの痛みと比べる
  • 咬筋:軽く歯を噛みしめて頬骨弓と下顎角の間にある筋を確かめ、力を抜いた状態で、較正された顎関節症(TMD)の診察プロトコルに沿って診察する
  • 前脛骨筋:足首を反らせて(背屈)、すねの骨の稜線の外側にある筋腹を確認し、力を抜いてから診察する
  • 梨状筋と腰方形筋(QL):深部の解剖学的な位置関係と、部位ごとの検査を用いる。表面からの圧迫では、針を刺す目標は決められない

心地よさを動きにつなげる

やさしく触れることが助けになると感じたら、その効果を日常の動作を楽にするために使いましょう。圧をかけるかどうかは任意で、組織が「ほぐれる」反応を引き出す必要はありません。

  • 解剖に自信がない場合は、触れてよい部位を医療者と一緒に決めておく
  • 触れるのは心地よい範囲で短時間に。痛み、ピクッとした反応、思わず体が引ける反応を無理に引き出さない
  • 電気が走るような症状、広がるピリピリ感、しびれが出たら手を離す
  • そのあと、支えながら首を回す、少し歩くなど、楽な動きを続ける
  • その部位がかえって敏感になったり、日常の活動がつらくなったりしたら、繰り返し押すのをやめる

受診のときに所見を伝える

なじみのある症状を説明してもらえると、医療者にとって役立つ手がかりになります。患者さんご自身がトリガーポイントを診断する必要はありません。

  • いつも痛む場所を指し示し、どんな動作で痛みが出るかを説明する
  • やさしく触れたときに、同じ症状が再現されたのか、別の感覚だったのかを伝える
  • ピリピリ感、しびれ、力の入りにくさは、分けて伝える
  • 言葉だけで伝えにくい場合は、簡単な症状の図を持参する
  • 機能面の目標と、症状が続いたり変化したりしたときにいつ見直すかを、話し合って決めておく

中止して診察を受けるべきとき

新しい症状や広がる症状が出たら、押すのをやめてください。痛みの反応を手がかりに、その構造に施術しても安全だと判断してはいけません。

押しているときに、電気が走るような痛み、広がるピリピリ感やしびれが出た

直ちに手を離してください。神経が刺激されている可能性がありますが、感覚だけで原因を診断することはできません。症状が続いたり繰り返したりする場合は、医療機関で評価を受けましょう。そのまま深く押したり、横にずらして続けたりしないでください。

脈打つ感じ、原因のわからないしこり、新しい腫れ

圧をかけるのをやめてください。その部位をマッサージしたり、何度も確かめたりしないようにします。それが何なのかは医療者が評価できます。ふくらはぎが新たに腫れて痛む場合は、とくに血栓のリスク因子がある方では、急いで診察を受ける必要があります。

確かめたあとに痛みが増す、または活動量が減る

セルフ触診はやめて、代わりに無理のない動きを取り入れましょう。強く押せば診察の精度が上がるわけではありません。悪化が続く場合は、別のほぐし方を試すのではなく、医療者と一緒に見直してください。

徐々に進む筋力低下や全身症状

新たな筋力低下、痛みと腫れのある部位を伴う発熱、原因のわからない強い症状がある場合は、医療機関で評価を受けてください。神経症状を伴う突然の激しい頭痛、胸の痛み、息苦しさがあるときは救急医療が必要です。ためらわず救急車(119番)を呼んでください。

まとめ

やさしく触れることは症状を説明する助けになりますが、それでトリガーポイントの診断が確定するわけではありません。

ジャンプサイン(思わず体が跳ねる反応)や強い痛み、教科書どおりの関連痛パターンを引き出す必要はありません。

医療者は、いつもの痛みを、筋の目印、動作、負荷、神経学的所見とあわせて解釈します。

経過は、睡眠、無理のない動き、日常の活動で確かめましょう。圧痛を繰り返し確かめるかどうかは任意です。

電気が走るような痛み、広がるピリピリ感やしびれが出たら圧を抜き、症状が続く場合は診察を受けましょう。