トリガーポイントに対する徒手療法とは

徒手療法
概要のイラスト徒手療法とは、手で触れたり動きを補助したりすることで、評価によって確かめた痛みや動きの問題に働きかける治療です。手技には、持続的な圧迫、部位を絞ったマッサージ、軟部組織のモビライゼーション、症例を選んで行う関節モビライゼーションなどがあります。治療の目標になるのは、たとえば「噛みやすくなる」「頭痛の日が減る」「楽に座っていられる」「歩きやすくなる」といったことです。
どのような場合に適応が最もはっきりしているかは、診断によって異なります。慢性の痛みを伴う顎関節症については、徒手による圧迫と、補助しながら行う顎のモビライゼーションがガイドラインで推奨されています。そのほか、骨盤底の圧痛を伴う膀胱痛、非特異的な慢性腰痛、足底のかかとの痛みについても、部位を絞った一部のプログラムが臨床試験で支持されています。
手技は診察のあとに選び、耐えられる強さについて事前に合意しておきます。顎の外側からの施術では、咬筋や側頭筋の「いつもの圧痛」を目安にできます。施術者が補助する顎の運動は、測定で確かめた動きの制限に対して行われることがあります。足底のかかとの痛みでは、ストレッチと組み合わせた、ふくらはぎへの圧迫とストロークが研究されています。
徒手療法の手技
以下の名称は、それぞれ異なるアプローチを指しており、裏づけとなるエビデンスの程度もさまざまです。その手技がどの診断を対象にしているのか、何を測って効果をみるのか、楽になる時間が短い場合に計画をどう変えるのかを、施術者に尋ねてみてください。
役に立つ結果とは、首を回す、食事を噛む、楽に座る、もっと遠くまで歩くといった、日々の活動が楽になることです。

徒手療法の手技
手順を追ったイラストトリガーポイントへの持続圧迫
機序
一定時間続ける圧迫は感覚への刺激となり、痛みの感じ方や、動かしたときの耐えやすさを変える可能性があります。
方法
痛む部位を楽な姿勢で支えたうえで、施術者は「いつもの痛み」と同じ圧痛があるかを確かめ、あらかじめ合意した耐えられる範囲で、少しずつ圧を加えていきます。反応に応じて圧を調整したり中止したりし、終わったら関連する動作をもう一度行ってみます。首・肩を対象としたある臨床試験では週1回、計4回の施術が行われ、事前に登録されたプロトコルには、選んだ4か所にそれぞれ約60秒の圧迫を加えると記載されていました。圧迫の時間やその後の通院回数は、反応を見ながら決めていきます。
エビデンス
オフィスワーカーの女性42人を対象とした試験では、徒手による圧迫とドライニードリングの間に有意な差はみられませんでした。どちらの群も、4回の治療後と3か月後の時点で、首の機能障害が改善しています。施術部位は主に僧帽筋と肩甲挙筋でした。ただし偽治療(シャム)群がないため、圧迫そのものの効果を示すことも、二つの治療が同等だと証明することもできません。
筋膜リリース(MFR)
機序
筋膜リリースとは、軟部組織に持続的に触れたり、組織を動かしたりする手技の総称です。目指すのは、体が楽になり、動きやすくなることです。
方法
施術者は、はっきりさせた症状と機能面の目標に合わせて、やさしく持続的に触れる、圧を加える、軟部組織を動かすといった方法を選びます。骨盤の健康に関わる診療では、骨盤・股関節・お腹の外側からの施術に、骨盤内からの手技を組み合わせたプログラムが研究されています。内診や骨盤内からの施術は、訓練を受けた施術者が、そのつど明確な同意を得たうえで行うものです。患者さんはいつでも断ることも、中止を求めることもできます。
エビデンス
膀胱痛症候群があり、骨盤底に圧痛のある女性81人を対象とした試験では、12週の時点で全般的な改善を示した方の割合が、標的を絞った筋膜理学療法で59%、全身マッサージで26%でした。一方、痛み、尿意切迫感、頻尿をそれぞれ個別にみると、有意な差はありませんでした。この結果は、内側と外側からの施術を組み合わせた部位別プログラムについてのものです。特定の筋だけへの効果や、外側からの施術だけで同じ効果が得られるかどうかは、まだわかっていません。
ディープティッシュマッサージ
機序
マッサージは、圧の強さも触れ方もさまざまです。その効果としては、リラックスや、痛み・動作の耐えやすさの一時的な変化などが考えられます。
方法
施術者は、体を楽な姿勢で支えたうえで、診察で確かめた症状のある部位に、ゆっくり滑らせる、もみほぐす、持続的に触れるといった手技を用います。圧の強さは施術前に話し合って決め、施術中も随時調整します。歩く、かがむといった実際の動作をもう一度行い、痛みが和らいだことで動きが良くなっているかを確かめます。
エビデンス
非特異的な慢性腰痛の患者さん401人を解析した試験では、リラクゼーションマッサージか構造的マッサージを週1回、計10回行うと、10週の時点で通常のケアに比べて機能障害が改善しました。構造的マッサージのほうが明らかに優れていたわけではありません。26週では機能面の差は小さくなり、症状の差は26週・52週ともに有意ではありませんでした。
スプレー&ストレッチ(トラベル法)
機序
スプレー&ストレッチは、皮膚を冷やす刺激と、やさしい他動的な動きを組み合わせて、ストレッチを楽に行えるようにする手技です。
方法
訓練を受けた施術者が、適切な冷却スプレー(気化冷却剤)を製品の説明どおりに使い、そのあと筋を無理のない範囲でストレッチします。皮膚と目を保護し、ストレッチはやさしく行います。冷却や動きで痛みが強まる場合は中止します。
エビデンス
僧帽筋上部に潜在性トリガーポイントがある健康なボランティア70人を対象とした試験では、ドライニードリングのあとにスプレー&ストレッチを行うと、追加の処置をしない場合よりも、直後の痛み(筋肉痛のような違和感)が軽くなりました。ただし72時間の追跡のうち、6時間後以降は差がなくなっています。この試験が調べたのは刺鍼後の痛みであり、続いている筋筋膜痛ではありません。PMID 24928191。
PubMed 24928191ストレイン・カウンターストレイン(ジョーンズ法)
機序
ストレイン・カウンターストレインは、圧痛や動かしやすさを確かめながら、体の一部を楽な位置に置いておく手技です。
方法
施術者は、患者さんが楽だと感じる姿勢で体の部位を支え、その後ゆっくりと中立位に戻します。終わったら、大切な動作が楽になったかを確認します。その姿勢でしびれ、めまい、痛みの増強が出た場合は中止します。
エビデンス
首の痛みと頸部の動きの制限がある成人61人を対象とした、偽治療を対照とする試験では、ストレイン・カウンターストレインを1回行っても、直後の可動性や痛みについて偽治療を上回る有意な効果はみられませんでした。1回だけの施術を調べた試験であり、より長い治療コースは評価されていません。PMID 23374199。
PubMed 23374199マッスルエナジー・テクニック(MET)
機序
マッスルエナジー・テクニックでは、抵抗に対して自分の意思で軽く筋を収縮させ、そのあと力を抜いて、楽な範囲で動かします。次の動きを耐えやすくすることがねらいです。
方法
患者さんは施術者の抵抗に対して、痛みが出ない程度にやさしく力を入れ、力を抜いてから、無理なく動かせる範囲で動かします。繰り返す回数は耐えられる程度に合わせ、終わったら動きをもう一度確認します。
エビデンス
僧帽筋上部に関連した首の痛みがある18〜30歳の女性45人を対象に、MET、徒手による圧迫、対照群を比較した試験です。すべての群が、姿勢についての助言と自宅での運動を受けていました。痛み、圧痛、機能障害、首の回旋は15日目までにすべての群で改善し、群間に有意な差はありませんでした。PMID 30588067。
PubMed 30588067ポジショナルリリース・セラピー
機序
ポジショナルリリースはストレイン・カウンターストレインと重なる部分が多く、体を支えた姿勢をとって楽な状態をつくってから、動きに戻していきます。
方法
施術者は、症状のある部位を、話し合って決めた楽な姿勢で支え、反応を確かめながら、ゆっくりと中立位に戻します。そのうえで、施術のきっかけとなった動作や活動をもう一度評価します。
エビデンス
僧帽筋上部に痛みとトリガーポイントがある、ほかに病気のない成人60人を対象に、ポジショナルリリースと治療的マッサージを比較した試験です。どちらの群も痛みが軽くなったと報告しており、群間に有意な差はありませんでした。評価は48時間後までで、長期的な効果は調べられていません。PMID 34776151。
PubMed 34776151持続圧迫
診察で確かめた症状のある部位に耐えられる強さで圧を加え、そのあと関係する動作を確認します。
顎のモビライゼーション
慢性の痛みを伴う顎関節症の治療の一環として、評価で確かめた顎の動きの制限に対し、施術者が補助して動かします。
部位を絞ったマッサージ
症状のある部位に心地よく触れる施術で、機能障害や活動の状態を再評価しながら行います。
ふくらはぎへの徒手療法
評価で確かめた足底のかかとの痛みに対し、ストレッチと組み合わせて、ふくらはぎへの圧迫とストロークを行います。
研究で実際に検証されたこと
以下の研究は、それぞれはっきり定義された臨床像を対象にしています。首・肩への圧迫治療では複数の筋が施術部位となり、腰のマッサージは部位全体に行われ、骨盤の理学療法は内側と外側からの手技を組み合わせたものでした。結果が当てはまるのは、それぞれの治療プログラムと対象者についてです。特定の筋だけへの効果や、ほかのプロトコルでの結果は、まだわかっていません。
足底のかかとの痛みの試験は1か月時点の結果を報告しており、腰痛の試験では26週・52週の時点で症状に有意な差はみられませんでした。これとは別に、頸原性頭痛の患者さん200人を対象とした試験では、徒手療法または低負荷の運動によって12か月後まで頭痛の指標が改善しましたが、両者を組み合わせても統計的に優れてはいませんでした。この徒手療法プログラムにはモビライゼーションと高速度の手技(スラスト)の両方が含まれており、後頭下部へのマッサージ単独は調べられていません(Jull ら、2002年;PMID 12221344)。
PubMed 12221344De Meulemeester ら (2017)
Busse ら (2023)
FitzGerald ら (2012)
Cherkin ら (2011)
Renan-Ordine ら (2011)
慢性の顎の痛み
骨盤の痛みの全般的な改善
10週時点の機能
治療の計画と見直し
治療計画には、診断、合意した手技、見直しの時期が欠かせません。以下の流れに沿って治療を選び、測定した反応に応じて調整していきます。

治療の進め方
手順を追ったイラストステップ1:評価し、目標を決める
関連する診断と、患者さんが改善したい活動を明らかにします。症状と機能の状態を記録し、体にどのように触れるのかを説明したうえで、その範囲について合意しておきます。
ステップ2:適応のある手技を試す
その症状に裏づけのある手技を選び、合意した耐えられる強さで行ってから、基準となる動作をもう一度行います。圧の強さ、時間、施術する範囲は、ご本人の反応と測定した変化に応じて調整します。
ステップ3:効果の持ち越しを確かめる
動きやすさが日常の活動にまで続いているかを確認します。頭痛のある日数、無理なく口を開けられる幅、歩ける距離、機能障害のスコアなど、関係する指標を見直しましょう。改善がみられたら、それを足がかりに、その診断に合わせて選んだ能動的な計画を進めます。
ステップ4:終了か、再評価か
目標が達成されたとき、または効果が不十分なときは、治療をいったん終えます。患者さんがご自身でできること、症状がぶり返したときの対応、どのような変化があれば診察が必要かを、あらかじめ話し合っておきます。
徒手療法だけでは足りないとき
一時的に楽になってもすぐ痛みが戻る場合は、診断、治療の効果、期待していたことを見直すきっかけになります。次の一手を選ぶ前に、症状と日常の活動を、治療前の状態と比べてみましょう。
病歴に照らして関係がありそうなら、日々の活動、睡眠、ストレス、そのほかの健康上の気がかりも見直します。症状を決まって悪化させる作業は調整し、関係する医学的な問題があれば、評価や治療につなげます。
痛みが続く場合は、段階的な活動、睡眠の支援、心理的なケア、お薬の見直しなどを、その方の状態に合わせて組み合わせた、より幅広い計画が必要になることがあります。新たな筋力低下、原因のわからない腫れ、全身症状、痛みの大きな変化がある場合は、局所の治療を続ける前に、改めて診察を受けてください。
必要に応じて見直したい点
機械的な要因
- 症状を決まって悪化させる、同じ姿勢や動作を続ける作業
- 快適さのために試してみる価値がある作業環境の見直し
- 最近増えた反復作業やトレーニングの負荷
- 痛みや筋力低下のために難しくなっている動作
- 姿勢を変えたり体を動かしたりする機会が少ないこと
- ご本人の症状と関連する寝る姿勢や活動
必要に応じた医学的評価
- 新たに出てきた神経症状や、原因のわからない筋力低下
- 最近のけが、または急性の組織損傷が疑われる場合
- 評価が必要な全身症状
- 病歴からみて関係がありそうなお薬の影響
- 問診や診察から検査が妥当と考えられる場合の、栄養素の欠乏や内分泌の病気の可能性
- 治療計画を変える必要がある、すでにわかっている病気
心理的な要因
- 慢性的なストレスや不安
- うつ病や気分の落ち込み
- 睡眠の質の低下
- 動くことへの不安や、日常の活動を狭めてしまう回避行動
適切な施術者の探し方
その体の部位と診断について訓練を受けていて、どのように触れるのかを説明し、同意を尊重し、経過をきちんと測ってくれる施術者を選びましょう。職種の名称や業務の範囲は国によって異なります。骨盤内や口の中からの手技には、専門の訓練が必要です。
理学療法士(PT)
- 理学療法士は、手を使った治療に、運動、動作の練習、リハビリテーションを組み合わせることができます。ご自身の診断に関する研修歴、提案された手技、経過をどのように測るのかを尋ねてみてください。
- 参考になる資格・研修: 理学療法士の国家資格に加え、徒手療法に関する研修歴が参考になります(米国ではDPT・OCS・FAAOMPTなど)
オステオパシー医(DO)
- オステオパシー手技療法を日常的に行っているオステオパシー医は、より広い医学的な枠組みのなかで、ストレイン・カウンターストレイン、マッスルエナジー、筋膜への手技を用いることがあります。痛みにほかの健康上の問題が重なっている場合には、その医学的な訓練が役立つこともあります。ただし、筋筋膜痛に対する個々のオステオパシー手技については、エビデンスが限られています。なお、DOは主に米国の医師資格で、日本には同じ資格制度はありません。
- 参考になる資格・研修: DO、該当する場合はNMM/OMM関連の研修(いずれも米国の制度)
カイロプラクター(DC)
- カイロプラクターのなかには、脊椎や部位ごとの手技療法とあわせて、軟部組織への手技を用いる人もいます。ご自身の症状に関係する研修を受けていること、同意をはっきり得てくれること、活動や機能を再評価する計画があることを目安に選びましょう。日本では、カイロプラクティックは国家資格ではありません。
- 参考になる資格・研修: DC(日本では民間資格)に加え、軟部組織やリハビリテーションに関する個別の研修歴
マッサージの施術者(日本ではあん摩マッサージ指圧師)
- マッサージの施術者は、自身の訓練と業務範囲のなかで、リラクゼーションや部位を絞った手技を提供できます。同意をはっきり得ること、圧の強さを調整してくれること、ご自身にとって大切な目標に沿って再評価してくれることを目安にしましょう。
- 参考になる資格・研修: 臨床マッサージ、神経筋療法、筋膜に関する研修歴が目安になります。日本での国家資格は、あん摩マッサージ指圧師です
施術者に確認しておきたい質問
トリガーポイントや筋筋膜痛の治療について、専門的な研修を受けていますか?
手を使った治療に、運動やセルフマネジメントの指導を組み合わせていますか?
どの手技を使うかは、どのように決めていますか?
この痛みのほかの原因の可能性は、どのように確認していますか?
治療が本当に役立っているかどうかは、どのように測っていますか?
徒手療法で一時的にしか楽にならない場合は、どのような計画になりますか?
ほかの治療法との比較
徒手療法
ドライニードリング
TENS(経皮的電気神経刺激)
運動療法
治療は診断に合わせる
慢性の顎の痛み、骨盤の圧痛を伴う膀胱痛、非特異的な腰痛、足底のかかとの痛みでは、研究されてきた徒手療法の内容がそれぞれ異なります。症状と、関係する動きを診察したうえで治療を選びます。
触れ方と圧の強さを話し合う
治療は合意した耐えられる範囲で行い、反応を聞きながら調整します。骨盤内や口の中からの手技には、専門の訓練と明確な同意が必要です。
意味のある活動で効果を測る
必要に応じて、無理なく口を開けられる幅、頭痛のある日数、座っていられる時間、歩ける距離などを記録します。通院の合間に、症状が日常の機能にどう影響しているかを確認し直しましょう。
全体のケア計画を保つ
必要とされる運動、セルフマネジメント、医学的なケアは続けてください。骨盤への徒手療法は、膀胱やそのほかの骨盤の症状に対する評価・治療と連携させて行います。
見直しの時期をあらかじめ決める
臨床試験のスケジュールは、回数の目安として参考にします。治療を延ばす前には設定した目標を見直し、ご自身で続ける活動と、今後症状がぶり返したときの対応について合意しておきます。
効果が限られるときは再評価を
楽になる時間が短いことは、計画を変える理由になります。悪化が続く場合や、新たな神経・血管・全身の症状が出た場合は、局所の治療を続ける前に評価を受けてください。