運動をめぐる、ふたつのメッセージ

Exercise Guide

Exercise Guide

Key Positions and Form Guide

筋筋膜性疼痛症候群(MPS)をお持ちの方は、おそらく相反する 2 つのアドバイスを受けてきたのではないでしょうか。「もっと動きましょう」と「使いすぎだから痛むのです」。どちらにも一理ありますが、両者の緊張関係こそが、トリガーポイントとつき合っていくうえで多くの方が混乱されるところです。

実際のところ、 活動的なトリガーポイントは、まず穏やかな動きから始め、徐々に負荷を上げていくほうが手応えを得やすい と考えられています。トリガーポイントを抱えた筋肉はすでに過敏で、急な負担に弱いことが少なくありません。最初から強い運動に飛び込むと、かえって悪化することがあります。一方で、まったく動かないこともまた、症状を長引かせる方向に作用しがちです。

同じくらい大事な裏側があります。 動かなさすぎると、筋力や持久力が落ち、刺激にいっそう弱くなる という側面です。普段の動作だけで筋肉が疲れやすくなり、その疲れが新たな痛みを引き出してしまう。痛みで動きにくくなる ↓ さらに弱くなる ↓ 動きがますます辛くなる、というループが生まれることがあります。

中心になる考え方

筋筋膜性疼痛における運動の目的は、運動能力を伸ばすこと自体ではありません。目指したいのは、 it is 日々の生活が、痛みに振り回されにくい状態で送れるようになることです。フィットネスとしての成果は嬉しいおまけですが、唯一の成功指標ではありません。

痛みを避けすぎるパターン

動くこと自体を避け続けると、筋力や持久力が落ち、ふだんの負担にも耐えにくくなっていきます。

頑張りすぎるパターン

調子がよい日に張り切りすぎてしまうと、増悪を招き、防御的なこわばりを強めてしまうことがあります。

心地よい中間地点

今の許容量を尊重しながら、少しずつ容量を育てていく、穏やかで継続的な運動が、多くの方にとって続けやすい道筋です。

運動の3つのフェーズ

The Three Phases

The Three Phases

Stage Progression Diagram

運動を通じた回復には、おおまかな段階があります。「運動が合わない」と感じてしまう原因の多くは、運動そのものではなく、量・強度・タイミングの選び方にあると考えられています。以下の枠組みは目安であり、進む速さは個人差が大きいことを前提にしてください。

運動は、慢性の痛みのケアにおいて役立つ場合があります。ただし、量とタイミングをからだに合わせていくことが大切です。

1

穏やかな動き

導入期

目標:動くことから遠ざかってしまう循環を、ゆるやかに断ち切る

取り入れやすい活動

  • ウォーキング(短く、心地よい範囲で)
  • ウォームアップ後の穏やかなストレッチ
  • 可能であればプールでの運動
  • 横隔膜を使った深い呼吸
  • やさしい可動域運動

心がけたいこと

  • 運動中の痛みは「許容できる範囲」にとどめましょう
  • 鋭い痛みや、急に強くなる痛みを感じたら中断してください
  • 「やればやるほどよい」より「無理なく続けられる」を優先しましょう
  • 導入期は「やりすぎる」より「少なすぎる」ほうが安全です
  • 長時間より、毎日の短いセッションのほうが続けやすい傾向があります

「回復の過程でみられる感覚」と「気をつけたい痛み」 回復の過程でみられることのある運動後の感覚は、軽くて広がりがあり、時間と穏やかな動きで落ち着いていく傾向があります。一方、鋭く一点に集中していて、時間とともに強まり、動作を妨げるような痛みは、量や種目を見直すサインです。

2

回復を進めていく時期

構築期

目標:動かせる範囲と、ベースの筋力を取り戻していく

取り入れやすい活動

  • 少し長めのウォーキング
  • ヨガ(陰、リストラティブ、やさしいハタなど)
  • 水泳・アクアエクササイズ
  • 軽〜中程度のサイクリング
  • 自重でのスクワット・ヒップリフト・壁押し腕立てなど
  • 太極拳や気功

進めるときの目安

  • 時間や負荷は、急に上げず、ゆるやかに足していきます
  • 運動中の痛みは、許容できる範囲にとどめましょう
  • 運動後の軽い疲労感は、想定される回復のなかでおさまることが望ましいです
  • 新しい種目は、一度にたくさん追加せず、ひとつずつ試しましょう
  • エネルギーが低い日は、量を減らしても完全に止めずに、軽く動くことを大切にしてください
  • 回復日にも、軽い動きをはさんでおくとリズムが保ちやすくなります
3

筋力づくりの時期

後期

目標:再発のしにくさと、日々の負担への耐性を育てる

取り入れやすい活動

  • からだに合った進め方でのレジスタンストレーニング
  • 弱くなりがちな部位への、的を絞った筋活動
  • ウォーキングとジョギングの組み合わせ
  • 競技動作の、軽めにアレンジしたバージョン
  • 徐々に強度を上げるピラティス、または難度の高めなヨガ
  • 日常動作を意識したファンクショナルなトレーニング

大切にしたい考え方

  • 痛む筋肉だけでなく、弱くなりがちな部位にも目を向けましょう
  • 重い負荷より、軽い負荷でていねいに動くほうが、出発点としては取り入れやすい場合が多いです
  • エキセントリックトレーニング(伸びながら力を出す動き)は、部位や時期によっては有用なことがあります
  • 同じ部位を続けて鍛えず、回復のための間隔を空けましょう
  • 症状が不安定な時期には強度を上げるよりも、動作の安定性を優先します
  • 筋力を伸ばす時期にも、可動域のための動きは続けていただくことをお勧めします
  • スポーツや負担の大きい活動への復帰は、基礎の動きが安定してからが安心です

大切な点として、 後期は「ゴール」というより、長く続けられる運動習慣を育てる時期と捉えていただくとよいかもしれません。痛みが落ち着いた瞬間に運動をやめてしまうと、再発のしやすさが残りやすい傾向があります。

筋筋膜性疼痛と相性のよい運動

Best Exercises for myofascial pain

Best Exercises for myofascial pain

Form and Position Guide

以下の運動は、筋筋膜性疼痛をお持ちの方の多くが取り入れやすく、無理のない範囲で続けやすいものをまとめたものです。順位は絶対的なものではありません。トリガーポイントの分布、症状の不安定さ、もともとのコンディション、併存する診断によって、最適な選択は変わります。

ウォーキング

大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋、殿筋群、腸腰筋、体幹安定筋群、自然な腕振りで動員される上半身

#1出発点として取り入れやすい

ウォーキングは、筋筋膜性疼痛をお持ちの方にとって最も導入しやすい運動のひとつです。全身の筋肉をリズミカルに使うため、循環がうながされ、筋緊張がやわらぎ、「動いても安全と感じられる」という感覚を取り戻しやすくなります。衝撃が小さく、ご自身のペースで強度を調整できる点も大きな利点です。屋外を歩くと気分転換にもなり、ストレスとの付き合い方にもよい影響があると考えられています。

症状に合わせた工夫

  • 快適に感じられるペースで5〜10分程度から始めてみてください(あくまで目安で、体調に応じて調整してください)
  • はじめは平らで段差の少ない道を選びましょう
  • 足に合った、底の安定した靴を選ぶと負担が少なくなります
  • 腕は力を入れずに自然に振り、肩や顎の力を抜くようにしましょう
  • 一度に長く歩きにくいときは、10〜15分程度を分けて歩いていただいても構いません

気をつけたいサイン

  • 肩や首の痛みが強くなる場合は、腕や顎に力が入っていないかご確認ください
  • 腰のこわばりが出る場合は、歩幅やペースをひとまわり小さくしてみてください
  • 股関節の痛みが出る場合は、距離を控えめにし、不整地は症状が落ち着くまで避けるのが無難です

ひと目でわかる早見表

関連する筋肉

大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋、殿筋群、腸腰筋、体幹安定筋群、自然な腕振りで動員される上半身

取り入れやすさの目安

#1 (よく挙がる7種のうち)

水泳・水中運動

全身が動員されますが、なかでも僧帽筋上部、広背筋、殿筋群、大腿四頭筋、体幹安定筋群への効果が期待できます

#2症状が出やすい時期に向きやすい

水の浮力は関節や筋肉にかかる体重の負担をかなり軽くしてくれるため、陸上での運動が辛く感じられるときでもからだを動かしやすくなります。温かい水のなかでは緊張した筋肉が落ち着きやすく、防御的な力みもやわらぐ傾向があります。水の抵抗は動かすほどに増えるため、無意識に飛ばしすぎてしまいにくいことも、慢性の痛みをかかえる方には扱いやすい点です。

症状に合わせた工夫

  • はじめは胸の高さの水中で、10〜15分ほど水中ウォーキングをしてみてください(時間はあくまで目安です)
  • 上半身の負担を抑えたいときは、ビート板や浮き具を活用しましょう
  • 関節リウマチや慢性疼痛の方を対象としたアクアエクササイズのクラスは、心強い選択肢です
  • 泳ぐのであれば、まずは肩の負担が比較的少ない背泳ぎから始めるのが無難です
  • 股関節・膝・鼠径部に症状があるときは、平泳ぎは当面控えめにしましょう

気をつけたいサイン

  • クロール中に肩に痛みが出るときは、種目を変えるか強度を下げてみてください
  • 首に張りが出るときは、シュノーケルを使う、別の種目に切り替えるなどの工夫が役立ちます
  • 冷たいプールは、かえって筋肉の緊張を強めてしまうことがあります

ひと目でわかる早見表

関連する筋肉

全身が動員されますが、なかでも僧帽筋上部、広背筋、殿筋群、大腿四頭筋、体幹安定筋群への効果が期待できます

取り入れやすさの目安

#2 (よく挙がる7種のうち)

ヨガ

ポーズによって変わりますが、腸腰筋、ハムストリングス、僧帽筋上部、大胸筋、脊柱起立筋などに働きかけやすいです

#3可動域・自律神経の落ち着きに役立つ

ヨガはストレッチ・筋活動・呼吸・注意のコントロールが組み合わさった運動で、適切に取り入れれば筋筋膜性疼痛のケアに役立つことがあります。ゆっくりとした動きはトリガーポイントを刺激しにくく、可動域を少しずつ取り戻していきやすいと考えられています。呼吸と弛緩の要素は、防御的なこわばりや交感神経の興奮を落ち着けるのに役立つ場合があります。

症状に合わせた工夫

  • まずはリストラティブヨガ、やさしいハタヨガ、陰ヨガなど、負荷の軽いクラスから始めてみてください
  • ブロック・ストラップ・ボルスター・ブランケット・壁を遠慮なく活用しましょう
  • 痛みが強まるポーズは、軽い形に変える、もしくはスキップして構いません
  • 柔軟性を競う場ではない、と最初に意識を切り替えるとうまくいきやすいです
  • ホットヨガは熱で痛みのサインが分かりにくくなるため、出発点としてはおすすめしにくい選択肢です

気をつけたいサイン

  • 「もっとできるはず」という気持ちが先走っていないか
  • 腰の症状が強い時期の深い後屈
  • 首や僧帽筋上部の症状が強い時期の逆転ポーズ
  • からだが震えたり、息が止まったり、痛みが増していくほどの長い保持

ひと目でわかる早見表

関連する筋肉

ポーズによって変わりますが、腸腰筋、ハムストリングス、僧帽筋上部、大胸筋、脊柱起立筋などに働きかけやすいです

取り入れやすさの目安

#3 (よく挙がる7種のうち)

太極拳

大腿四頭筋、殿筋群、下腿三頭筋、体幹安定筋群、三角筋、回旋筋腱板、股関節外転筋

#4バランス・自信・落ち着きに役立つ

太極拳は、ゆっくりと流れるような動きと呼吸、注意の集中を組み合わせた運動です。慢性の痛みをお持ちの方を対象とした研究では、痛みやバランス、からだの感覚、QOL の改善につながる可能性が示唆されています。ただし、効果の大きさには個人差があります。重心移動と制御された動きが続くため、急な負荷をかけずに筋肉をやさしく使うことができます。

症状に合わせた工夫

  • 立位でのバランスに不安があるときは、椅子に座って行う型から始めるとよいでしょう
  • 複雑な伝統型より、初心者向けの簡化套路から取り組むのが取り入れやすいです
  • スタンスを浅くしても効果は得られます。深く膝を曲げる必要はありません
  • まずは10〜20分を目安に、慣れてきたら少しずつ時間を延ばしてみてください(時間は体調に応じて調整してください)

気をつけたいサイン

  • 深いスタンスでの膝の痛み
  • 腕を高く保つ姿勢を続けることによる肩の疲労
  • 頭を回すときのめまい。動きをゆるやかにすると落ち着きやすくなります

ひと目でわかる早見表

関連する筋肉

大腿四頭筋、殿筋群、下腿三頭筋、体幹安定筋群、三角筋、回旋筋腱板、股関節外転筋

取り入れやすさの目安

#4 (よく挙がる7種のうち)

サイクリング

大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋、殿筋群、腸腰筋、姿勢に応じて体幹

#5低衝撃で取り入れやすい

サイクリングは衝撃が比較的小さく、有酸素運動としても役立ちます。ペダリングの繰り返しによって下半身の循環がうながされますし、屋内のエアロバイクであれば時間や負荷を細かく調整できます。腰・首・肩に症状がある方には、リカンベント型のほうが楽に感じられることもあります。

症状に合わせた工夫

  • はじめは室内バイクの軽い負荷で、10〜15分を目安に始めてみてください(時間はあくまで目安です)
  • 前傾姿勢で首・肩・背中に響くようであれば、リカンベント型を選びましょう
  • ペダルが一番下にきたときに、膝が軽く曲がる程度にサドルの高さを合わせます
  • ハンドルは握りしめず、力を抜いて支える程度にしましょう
  • 屋外で乗る場合は、はじめは平らな道を選び、坂は当面控えめにしましょう

気をつけたいサイン

  • 前のめりの姿勢が続くと、首や僧帽筋上部に張りが出ることがあります
  • 極端に前傾するフォームは腰への負担が大きくなりがちです
  • 膝の痛みが出る場合は、サドル高さと負荷を見直しましょう
  • 手のしびれが出る場合は、握り位置を変え、上半身の力みをゆるめてみてください

ひと目でわかる早見表

関連する筋肉

大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋、殿筋群、腸腰筋、姿勢に応じて体幹

取り入れやすさの目安

#5 (よく挙がる7種のうち)

ピラティス

腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群、腹斜筋、殿筋群、肩甲骨周囲の安定筋

#6体幹コントロールと動きの質

ピラティスは、体幹のコントロール、姿勢のアライメント、呼吸、ていねいな動作の質を重視した運動です。筋筋膜性疼痛をお持ちの方にとって、症状を続けてしまう動きの癖や筋バランスの偏りを整える手がかりになることがあります。自己流で行うよりも、症状に応じた修正ができる指導者のもとで行うほうが安全です。

症状に合わせた工夫

  • いきなり上級クラスに進まず、マットピラティスや、リフォーマーの基礎メニューから始めてみてください
  • 最初は呼吸・骨盤のコントロール・軽負荷の体幹安定など、基礎の動きに集中しましょう
  • 可能であれば、慢性疼痛の方を見慣れた指導者にお願いするのが安心です
  • 腹直筋・首・肩の症状が出るメニューは、軽くするかスキップして構いません
  • フルプランクが辛いときは、前腕支持や傾斜をつけたバージョンに変えていただくとよいでしょう

気をつけたいサイン

  • 仰向けの種目で首に力が入りすぎていないか
  • 脚を下ろす動作のときに腰に痛みが出ていないか
  • 荷重をかけるエクササイズで肩に痛みが出ていないか

ひと目でわかる早見表

関連する筋肉

腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群、腹斜筋、殿筋群、肩甲骨周囲の安定筋

取り入れやすさの目安

#6 (よく挙がる7種のうち)

レジスタンストレーニング

個別評価に基づいて選択しますが、肩甲骨周囲の安定筋、回旋筋腱板、殿筋群、体幹、深部頸部屈筋などが対象になりやすいです

#7症状が落ち着いてきた段階向き

症状の波が落ち着いてきた時期には、レジスタンストレーニングを少しずつ取り入れていくことが、再発のリスクを下げる助けになる場合があります。筋力や持久力が落ちている筋肉は日常動作のなかで疲れやすく、それが症状を呼び戻す引き金になりやすいためです。フォームを大切にしながら、ゆっくりと負荷を上げていく姿勢が役立ちます。なお、症状が不安定な時期には強度を上げるよりも、動作の安定性を優先します。

症状に合わせた工夫

  • いきなり重い負荷ではなく、自重や軽い負荷から始めましょう
  • 反復回数を確保したコントロールされた動作のほうが、安全に強度を積み上げやすいです
  • 勢いで上げ下ろしせず、ゆっくり丁寧に動くことを心がけてください
  • 痛む筋肉だけでなく、弱くなりがちな部位にも目を向けましょう
  • 同じ部位を続けて鍛えず、回復のための間隔を空けるようにしましょう

気をつけたいサイン

  • 運動中に明らかに痛みが増していくとき
  • 想定よりも長く尾を引く運動後の軽い疲労感
  • 本来使うべき筋肉ではない部位での代償的な動き
  • 頑張るときに息を止めてしまう癖

ひと目でわかる早見表

関連する筋肉

個別評価に基づいて選択しますが、肩甲骨周囲の安定筋、回旋筋腱板、殿筋群、体幹、深部頸部屈筋などが対象になりやすいです

取り入れやすさの目安

#7 (よく挙がる7種のうち)

(はじめのうちは)控えめにしたい運動

重い負荷でのオーバーヘッド動作

頭上に重い物を扱う動作は、僧帽筋上部、回旋筋腱板、肩甲挙筋、肩関節周囲に大きな負担をかけることがあります。症状が強い時期に取り入れると、すぐに痛みがぶり返してしまうことが少なくありません。問題は「オーバーヘッド動作そのものが悪い」ということではなく、導入が早すぎたり、いきなり負荷を上げすぎたりすることに起因する場合が多いと考えられます。

取り入れやすくなる目安:

肩の可動域が無理のない範囲で出るようになり、軽い負荷でのオーバーヘッド動作にも違和感が出にくくなってからが目安です。少ない負荷と狭い可動域から、慎重に段階を踏んでいきましょう。

硬い路面での衝撃の強いランニング

硬い路面でのランニングは、下腿・膝・股関節・脊柱に繰り返し衝撃を加えることになります。トリガーポイントが活動的だったり、負荷の許容量が下がっていたりする方にとっては、その反復衝撃が症状を悪化させる原因の一つになり得ます。リスクの大きさは路面の硬さだけでは決まりません。走行距離・頻度・フォーム・靴など複数の要因が影響します。

取り入れやすくなる目安:

ふだんのウォーキングが安定し、下半身に負荷をかけても症状が大きく揺れなくなってからが目安です。トレッドミルや柔らかい路面、必要に応じて歩きとランの組み合わせから始めるのが安全です。

症状が強い筋肉を一気に追い込むメニュー

すでに刺激に過敏になっている筋肉を強く追い込むと、防御的なこわばりが強まり、症状をかえって反応しやすくしてしまうことがあります。「だから一生筋トレを避けるべき」というわけではなく、まずは負荷を下げ、可動域を広げ、段階的に運動を再開していきましょう。

取り入れやすくなる目安:

過敏さが落ち着き、無理のない範囲で動かせるようになってからが目安です。再開時は負荷を控えめにし、フォームのコントロールに重点を置きましょう。

長時間の静止保持

プランクやウォールスクワット、強めのストレッチを長く保持し続けると、局所の血流が滞り、筋肉の疲労がたまりやすくなります。トリガーポイントが活動的な時期には、これが症状を引き出すきっかけになることがあります。短めの保持を症状に合わせて行うほうが、無理なく続けやすいでしょう。

取り入れやすくなる目安:

穏やかなストレッチや短い保持は問題ないことが多いです。長く保つほどよい、と考えずに、少しずつ時間を延ばしていきましょう。

「痛みなくして得るものなし」という発想

筋筋膜性疼痛のケアにおいては、この発想はあまり助けになりません。強い痛みを押して動き続けると、筋緊張が増し、増悪を呼び込みやすくなります。リハビリ中の軽い違和感が許容される場面はありますが、痛みを「頑張った証拠」と受け止める姿勢は、長い目で見ると逆効果になりがちです。

取り入れやすくなる目安:

指針として採用しないでください。代わりに、無理のない強度で長く続けることを軸に置くことをお勧めします。

ストレッチを、無理なく行うために

ストレッチは筋筋膜性疼痛のケアに役立つことがありますが、強く伸ばしすぎると逆効果になりやすいのも事実です。痛みを我慢して伸ばし続けると、防御的な反応で筋肉がかえってこわばってしまうことがあります。「軽い張り」「安定した呼吸」「続けやすさ」を大切にしていただくほうが、結果的に効果につながりやすい傾向があります。

よくあるすれ違い

痛みを感じる強さで伸ばし続けると、筋肉を緩めるどころか、かえって守るほうに働いてしまうことがあります。

うまくいきやすいやり方

軽い張りを感じる位置で止まり、ゆっくり呼吸を続けてください。組織がゆるむにつれて、可動域が無理なく広がっていくことがあります。

スタティックストレッチ

最もなじみのあるストレッチの形です。心地よい伸びを感じる位置までゆっくり動き、反動をつけずにそのまま保ちます。痛みを我慢せずていねいに行えば、可動域や動きの楽さの改善につながることがあります。

  • まずは20〜30秒を目安に保持してみてください。心地よく続けられる範囲で、徐々に長くしていきます
  • 「痛み」ではなく「軽い張り」を感じる強さで止めることが大切です
  • 可能であれば、軽く動いてからだが温まったあとに行いましょう
  • 保持中はゆっくり、安定したペースで呼吸を続けてください
  • 1か所につき2〜3回、1日1〜2回が取り入れやすい目安です(個人差があります)
  • ウォーキングや温かいシャワーのあとに行うと、無理なく伸ばしやすくなります

ダイナミックストレッチ

心地よい範囲のなかで、コントロールしながら動かしていく方法です。長い静止を伴わず、組織を温めて動きの準備を整えるため、運動前のウォームアップとして取り入れやすいストレッチです。

  • 運動を始める前のウォームアップとしてご活用ください
  • 腕回し・足の振り出し・体幹の回旋・歩きながらのモビリティ動作などが代表的です
  • 無理にいちばん遠くまで動かそうとせず、楽に動かせる範囲で行いましょう
  • 各動作 8〜12 回ほど、なめらかな動きで繰り返してみてください
  • からだが温まるにつれて、可動域は少しずつ広がっていきます
  • 反動を使った勢いの強い動作は、症状を呼び戻すことがあるため避けましょう

PNF ストレッチ(収縮 - 弛緩法)

やさしい等尺性収縮と弛緩を組み合わせ、その後にもう一度伸ばし直す、やや上級者向けのストレッチです。スタティックストレッチだけのときよりも可動域が広がりやすいことがありますが、無理のない強度で、できれば指導を受けながら行うのが安心です。

  • まずは軽い張りを感じるところまでストレッチします
  • その姿勢のまま、ストレッチしている筋肉を軽い力で 5〜7 秒ほど押し合います
  • 数秒間、ゆっくり力を抜きます
  • 楽に感じられるようであれば、もう少しだけ深く伸ばしてみましょう
  • からだの状態に合わせて、2〜4 サイクル繰り返すことが多いです
  • セラピストやパートナー、安定した壁などを支えにすると行いやすくなります

反対側の筋肉も育てる

こわばりやすい筋肉の反対側は、弱くなっていることが少なくありません。多くの場合、こわばった筋肉を伸ばすだけでなく、対になる筋肉を強くしたり、まわりの動作の質を整えたりすることで、変化が長続きしやすくなります。

ストレッチ前にからだを温める

軽く動いてからだが温まったあと、あるいは温かいシャワーや穏やかな温熱のあとは、ストレッチが心地よく感じられやすくなります。冷えた状態より、温まった状態のほうが、組織は伸びを受け入れやすい傾向があります。

毎日できる、最低限の動き

ジムで1時間とらなくても、回復は始められます。短い時間でも毎日積み上げていくほうが、まれに大きく頑張るより手応えにつながりやすいと考えられています。目指したいのは、毎日の生活のなかに動く時間が「あたりまえに」あることです。なお、以下の時間や回数はあくまで目安であり、体調や症状に応じて調整してください。

朝

5分

ベッドから出る前か、起きてすぐの時間帯に

  • •ベッドのうえでの、やさしい全身ストレッチ
  • •キャットカウの動き:8〜10 回ほど
  • •チンタック(顎を引く動き):数回
  • •首のゆるやかな回旋:ゆっくり、コントロールしながら
  • •横隔膜を使った深い呼吸を数呼吸

昼

5分

デスクワークや長く座り続けたあとの休憩に

  • •2〜3 分ほど、軽く歩く時間をつくる
  • •肩回しを数回
  • •戸口を使った大胸筋のストレッチ
  • •座位または立位での体幹回旋
  • •タイピングが多い方は、手首と指の動かし方も

夜

10分

一日の終わり、できれば就寝前に

  • •気になる部位のフォームローリング、または穏やかなセルフリリース
  • •チャイルドポーズ・フィギュアフォー・仰臥位での体幹回旋など、やさしいヨガポーズ
  • •横隔膜呼吸や、リラクゼーションの時間
  • •僧帽筋上部のストレッチ
  • •日中座っていることが多い方は、腸腰筋のストレッチ

合計:1日 20 分ほど(目安)

これくらいの控えめな分量でも、数週間続けていくなかで意味のある変化につながることがあります。鍵は強度ではなく、続けやすいリズムです。

運動中に気をつけたいサイン

「もう少し続けて安全と感じられる」と「ここで止めるべき」を見分けられるようになることは、筋筋膜性疼痛のリハビリにおいて大切なスキルのひとつです。下の表は、想定される運動後の感覚と、内容を見直したほうがよいサインを区別するためのガイドです。

いったん運動を中止

運動中に鋭く突発的な痛みが出る

組織の刺激や、別の問題が背景にあるサインかもしれません。鋭い痛みは「もっと頑張れ」のサインではなく、いったん立ち止まって見直す合図とお考えください。

運動中に痛みがどんどん強くなっていく

ウォームアップで軽い違和感がやわらぐのはよくあります。一方で、続けるほど痛みが積み上がっていく場合は、強度や動きが今のコンディションに合っていない可能性があります。

想定よりも長く尾を引く痛み

運動後の軽い疲労感は自然なものです。翌日や翌々日になっても明らかに調子が悪いままのときは、運動量が今のからだに対して多すぎたと考えるのが妥当でしょう。

運動中のしびれ・ピリピリ感

神経への刺激や圧迫など、トリガーポイント由来とは異なる問題が関与している可能性があります。いったん中止して、医療機関にご相談ください。

目に見える腫れや内出血

穏やかな運動で腫れや内出血が出ることは、通常はありません。筋肉の疲労を超える組織への負担を示している場合があります。

想定の範囲内

運動後の軽い疲労感が、ゆっくり動いているうちにやわらいでいく

動き始めにあった筋緊張が、数分動かしているうちに楽になる

鋭く一点に集中する痛みではなく、運動した部位全体に広がる使用感(軽い疲労感)

休めば回復し、翌日に大きく持ち越さない一時的な疲労

血流が増えたことによる、運動した部位のほどよい温かさ

「翌日のからだ」で判断する

毎回の運動のあと、その日の夕方と翌朝のからだの様子を観察してみてください。普段と変わらない範囲に戻っていれば、その日の量はおそらく適切です。明らかに調子が悪いまま朝を迎えるようであれば、次回は量を減らしてみましょう。運動中の感覚を細かく追い続けるより、こちらのほうが判断材料として頼りになることが多いです。

進み具合をたしかめる

筋筋膜性疼痛の経過は、ゆるやかで一定ではないことが多いです。記録しないままでいると、改善していてもそれに気づきにくくなりがちです。下の指標を使うと、全体としての向きが見えやすくなります。なお、効果は「一回ごと」ではなく、「数週間単位の変化」で捉えていただくとよいでしょう。

運動の前後の痛みの強さ

日ごとに見るより、2〜4週間単位の傾向で見ていただくとわかりやすいです

各セッションの前後に、0〜10 のスケールで痛みの強さをメモしてみてください。続けていくうちに、運動前の数字が少しずつ下がっていったり、運動後の上がり幅が小さくなっていったりすることがあります。毎回大きく上がってしまうようであれば、強度を見直すサインと考えてよいでしょう。

動かせる範囲(可動域)

1〜3 週間ほどで変化に気づかれる方もいらっしゃいます(個人差があります)

以前より遠くまで手が届く、首が楽に回る、屈み込みやすくなったといった変化はありますか。可動域は、痛みが落ち着くより先に動きやすさとして感じ取れることがあります。

日常動作の許容量

数週間かけて少しずつ積み上がっていくことが多いです

症状が出るまでにどれくらい動けるか、という観点で見ていきましょう。前より長く歩ける、座っていられる、家事をこなせる、といった変化が目安になります。「日常で何がしやすくなったか」は、もっとも実感しやすい指標のひとつです。

睡眠の質

数日から数週間で変化を感じる方がいらっしゃいますが、個人差があります

日々のからだの動かし方は、眠りの質と互いに影響し合うと考えられています。寝つきまでの時間、夜中に目が覚める頻度、朝の目覚めの感覚を、ゆるやかに記録してみてください。

気分・エネルギー

気分の変化は早く現れやすい一方、安定した変化は数週間かけて出てくることが多いです

痛みそのものが大きく変わる前に、気分や活力の面で先に変化を感じ取られる方は少なくありません。これは、運動が回復全体によい影響を与えている手がかりのひとつとして捉えていただいて構いません。

シンプルな記録のしかた

凝ったアプリは必要ありません。3 つのデータポイントを、毎日のメモに書き留めるだけで十分です。

痛み(0〜10)

その日の平均で

行った運動

種類と時間

睡眠の質

良好・普通・あまりよくない

週に一度、ご自身の記録を眺めてみてください。どの運動と相性がよいか、どの動きで症状が揺れやすいか、運動した日と睡眠の関係はどうかなど、傾向が見えてきます。

学びを続ける