本文へスキップ
メインコンテンツへスキップ

筋肉ガイド

肩甲下筋:肩を回す動き、筋力と痛み

腱板の前面を担う肩甲下筋について、回すときの痛み、腱の機能低下、肩の動かしにくさをどう評価するかを解説します。

押さえておきたいこと

  • 肩甲下筋は肩甲骨の前面にあります。手を背中へ回す動きだけでは、この筋を単独で評価できません。
  • 自分で動かせる範囲、力を抜いて外向きに回せる範囲、内向きに回す力を比べてから治療を考えます。
  • けがの後に新たな筋力低下があれば、腱の評価が必要です。特別な検査が陰性でも、断裂を十分には除外できません。

解剖と画像の見方

肩甲下筋は肩甲骨の肋骨側を覆い、上腕骨の小結節に付着します。腕を内向きに回す働きがあり、ほかの腱板筋とともに上腕骨頭の動きを支えます。脇の下には重要な神経や血管が通っています。表面から深く押して、この筋だけに安全に圧を加えることはできません。 [1]

筋肉と痛みの図解

肩甲下筋

Essential Anatomy 5

筋肉と痛みの図解

図02・トリガーポイント領域

肩甲下筋。外側にある2つの領域例を、番号を付けずに示しています。原典に基づく代表的な領域の例です。番号付きの個別ポイントには割り当てていません。

画像内の表記は英語です。

元のサイズで画像を開く
この図について

Essential Anatomy 5から取得した画像です。解剖構造は描き直さず、色の調整と独立した注記の追加を行っています。領域の例を示しており、番号付きの個別ポイントには割り当てていません。

  • Simons, Travell and Simons, Myofascial Pain and Dysfunction, Volume1, second edition (1999), p598, Figure26.1, two lateral examples only

診察からわかること

ここでは医療者が行う評価を紹介します。結果の解釈と、その検査でわからないことを併せて確認してください。

自分で動かす場合と、支えて動かす場合の比較
評価の方法
腕を上げる動きと回す動きを観察し、次に腕を支えながら医療者が穏やかに動かした場合と比べます。痛む角度や、力を抜いても外向きに回しにくいかを記録します。
結果の活かし方
自分で動かす場合だけ制限されるのか、他動的に動かしても制限されるのかで評価は異なります。複数の方向で他動運動が制限される場合は、関節や関節包も調べます。
評価の限界
痛みに伴う防御的な筋緊張でも動きは制限されます。肩が硬いことだけで、肩甲下筋の短縮やトリガーポイントが原因とは判断できません。 [2]
内向きに回す力の比較
評価の方法
肘を無理なく体の近くに置き、軽い抵抗に対して腕を内向きに回す力を比べます。普段の痛みが出ることと、力が弱いことは分けて記録します。
結果の活かし方
回す運動の負荷を調整するための基準になります。けがの後に筋力低下が続く場合は、腱板の診察が必要です。
評価の限界
大胸筋や広背筋なども働く動作です。痛みで十分な力を出せない場合もあります。 [1][3]
必要に応じたベリープレス・リフトオフテスト
評価の方法
手を背中へ回しにくい場合、医療者はお腹を手で押すベリープレステストを選ぶことがあります。手首の動きで補わず、肩の姿勢を保てるかを観察します。
結果の活かし方
明らかな筋力低下や姿勢を保持できない所見があると、腱の機能低下が疑われ、詳しい検査を考える材料になります。
評価の限界
これらは腱断裂を評価する検査であり、トリガーポイント検査ではありません。肩甲下筋の断裂を見逃す場合もあるため、陰性だけで安心せず、痛い姿勢を繰り返し無理に取らないでください。 [3]

ほかに考慮する原因

腱板断裂

転倒や強い力が加わるけがの後に、著しい筋力低下、姿勢を保てない状態、腕を上げられない状態が生じます。

次の対応: 早めに診察を受けてください。画像検査は、結果によって治療方針が変わる場合に選びます。 [2][3]

凍結肩や変形性肩関節症

他動的に動かしても複数の方向で徐々に制限が進み、特に外向きに回しにくくなります。

次の対応: 関節を中心に評価し、無理のない範囲で動かす計画を立てます。 [2]

上腕二頭筋や首の関与

肩前面の腱の溝に沿う痛み、首に関連する症状、しびれ、ある一つの痛い動作だけでは説明できない筋力低下などが手がかりです。

次の対応: すべてを筋肉の痛みの図に当てはめず、上腕二頭筋、首、神経学的な所見を確認します。 [2][3]

症状に合わせた取り組み方

  1. 負担の大きい動作を調整する

    着替えや物に手を伸ばす動作は、楽に動かせる範囲で行い、必要なら腕を支えます。強い押し動作や、腕を限界まで回した状態での負荷によって痛みが長く残る場合は、一時的に減らしましょう。

    負荷の進め方: 大きな抵抗を加える前に、その活動で必要な動きの範囲を取り戻します。 [2]

  2. 回す動きに少しずつ負荷を加える

    診察後の選択肢として、肘を支え、内向きに回そうとする力を軽く保つ運動から始める方法があります。耐えられる範囲で、ゆっくり抵抗に逆らって回す運動へ進めます。

    負荷の進め方: 動く範囲、回数、抵抗のうち一つずつ変更してください。腱板リハビリテーションの実践例であり、肩甲下筋のトリガーポイントに対して検証された手順ではありません。 [2]

  3. 制限が続くときは評価を見直す

    運動計画では、まだ難しい肩の動きや日常動作も扱います。徒手療法で一時的に楽になる方もいますが、脇の下へ強い圧を加える必要はありません。

    負荷の進め方: 筋力や機能が低下してきたら、圧やストレッチを強めるのではなく、診断と方針を見直します。 [2][1]

経過をみるポイント

  • 同じ着替えや、物に手を伸ばす動作で比べます。
  • 同じ姿勢で、腕を回す力を確認します。
  • 肩を繰り返し刺激せず、自動運動と他動運動で無理なく動く範囲を記録します。

受診を考える目安

  • けがの後に力が入らなくなった、または腕を上げられない場合は、早めに受診してください。
  • 硬さが増す、筋力低下やしびれが続く、理由のわからない痛みが悪化する場合は再評価が必要です。

根拠とその限界

ここで引用する治療の根拠は、主に肩全体の問題としての腱板腱症を対象としています。肩甲下筋のトリガーポイントが凍結肩や離れた手首の痛みを引き起こすと証明するものではありません。

参考文献

  1. University of Arkansas for Medical Sciences: Muscles of the Upper Limb

    大学の解剖学資料. 筋の付着部、作用、神経との位置関係を確認する資料です。治療効果の根拠としては用いていません。この資料の図版は転載していません。

  2. Desmeules et al. Rotator Cuff Tendinopathy: Clinical Practice Guideline (2025)

    診療ガイドライン. 成人の腱板腱症を対象に、部分断裂を含む評価と運動療法を扱っています。全層断裂は対象外です。トリガーポイント図の妥当性を検証した資料ではありません。

  3. Jain et al. Diagnostic Accuracy of Special Tests for Rotator Cuff Tear: ROW Cohort Study (2017)

    前向き診断精度研究. 肩の痛みがある208人を調べた研究です。肩甲下筋の検査は感度が低く、陰性でも断裂を十分には除外できません。対象は腱板と上腕二頭筋の病変であり、トリガーポイントではありません。