リドカイン持続静注療法とは

リドカイン静注療法
概要図リドカイン持続静注療法は、局所麻酔薬として広く使われているリドカインを点滴で全身に投与する治療です。慢性筋筋膜性疼痛症候群(MPS)への使用は、日本では適応外使用にあたり、ペインクリニックなどの専門施設で、難治例に対して自費診療として行われることが多いものです。
理解しておきたい大切な点として、本療法は「リドカインの貼付剤」や「リドカインの局所注射」とは目的も到達範囲も異なります。外用や局所注射は皮膚や筋肉のごく狭い範囲に作用しますが、点滴で投与されたリドカインは血液脳関門を通過しうるため、脊髄や脳の痛み処理に対して影響を及ぼす可能性があると考えられています。広い範囲の痛みや、いわゆる中枢性感作と呼ばれる現象に対しては、局所治療では届かない部分への一つのアプローチとして検討されています。
「広い範囲の痛みに対する難治例の選択肢の一つ」と位置づけ、第一選択ではなく専門医のもとで慎重に検討する治療です。
慢性疼痛に対するリドカイン静注は1960年代から研究が始まり、神経障害性疼痛、術後痛、炎症性疼痛などで報告が蓄積されてきました。慢性筋筋膜性疼痛症候群への応用はそれよりも新しく、研究と臨床が並行して進んでいる段階です。患者さんに同じように効くわけではなく、効果が乏しいと判断された場合は早めに見直すことも大切です。
提唱されている作用機序
リドカイン静注の作用は単一の経路では説明できず、ナトリウムチャネルへの作用、中枢性感作と呼ばれる現象への影響、抗炎症作用、NMDA受容体への作用などが重なって関与すると考えられています。ただし「これだけで痛みの仕組みがすべて説明できる」というわけではなく、現時点での仮説を含む議論として理解してください。
全身性のナトリウムチャネル遮断(提唱されている機序)
中枢性感作と呼ばれる現象への影響(仮説)
抗炎症作用(前臨床・限定的な臨床データ)
NMDA受容体への作用(提唱されている機序)
ナトリウムチャネルへの作用
末梢から中枢にかけてのナトリウムチャネルに作用し、慢性疼痛で亢進した異常放電を和らげる方向に働く可能性があると考えられています。
中枢性感作と呼ばれる現象への影響
血液脳関門を通過しうるため、痛みを増幅させている脊髄や脳の処理に対しても影響を及ぼす可能性が議論されています。
抗炎症作用
前臨床研究を中心に、慢性のトリガーポイント周囲で持続する低レベルの神経炎症を和らげうる可能性が報告されています。
NMDA受容体への作用
ワインドアップ現象や中枢性感作に関わるNMDA受容体への弱い拮抗作用も、複合的な鎮痛効果に関与する可能性があります。
点滴の進め方の枠組み
投与の枠組み
点滴時間の目安
通院回数の目安
モニタリング体制
実施場所
投与前の検査
臨床エビデンス
系統的レビュー(慢性疼痛全般)
神経障害性疼痛に対する系統的レビュー
広範囲・中枢性増幅型の疼痛を対象とした試験
線維筋痛症と中枢性感作に関する研究
比較研究および機序研究
疼痛スコアの変化
中枢性感作との関連
効果の持続
点滴当日の流れ
事前評価とご説明
点滴ルート確保とモニター装着
点滴開始と最初の観察
速度の調節
点滴中の見守り
点滴後の観察と帰宅指導
対象として検討される方
中枢性感作の特徴をともなう広範囲のMPS
局所治療で十分な改善が得られなかった方
痛みの破局化スコアが高い方
神経障害性の要素もまじっている方
オピオイド減量を目指す方
禁忌と副作用
絶対禁忌
相対禁忌
副作用と起こり得るリスク
リドカイン静注の副作用は用量に依存し、適切な速度で行えば多くは軽度で一過性です。一方で、けいれんや不整脈、まれに局所麻酔薬中毒(LAST)など重篤な事象の可能性があるため、心電図と血圧を持続的に監視できる体制で実施されます。気になる症状があればすぐにスタッフへお伝えください。
口の周りのしびれ・違和感
ふらつき・めまい
金属のような味
耳鳴り
吐き気
眠気
他の治療との位置づけ
対 外用リドカイン(貼付剤・クリーム)
対 トリガーポイント注射
対 ケタミン点滴
対 経口メキシレチン
治療効果の経過の目安
複数回
週〜隔週
個人差
リドカイン静注は、慢性筋筋膜性疼痛症候群に対しては日本では適応外使用にあたります。専門施設での自費診療として、難治例に限定して検討されることが多い治療です。
提唱されている作用機序は、ナトリウムチャネルへの作用、中枢性感作と呼ばれる現象への影響、抗炎症作用、NMDA受容体への作用などです。いずれも仮説や限定的なエビデンスを含みます。
対象として検討されやすいのは、広範囲のMPSで中枢性感作の特徴があり、ドライニードリングや徒手療法など局所治療で十分な改善が得られなかった患者さんです。
現時点のエビデンスは小規模試験と系統的レビューが中心で、報告される疼痛軽減の程度は研究によって幅があります。中枢性感作の特徴を持つ表現型では一定の効果が期待しうるものの、MPS全般に普遍的な保証はないと理解しておく必要があります。
【重要】心電図・血圧・SpO₂の持続監視と、脂肪乳剤を含む救急体制が整った施設でのみ実施されます。重度の肝障害や房室ブロックがある場合は禁忌となります。
具体的な投与速度や1回の総量は、専門医が患者さんごとに個別に決めます。患者さん向けの本ページではあえて数値を記載していません。実施を検討される場合は担当医にご相談ください。
リドカイン静注は決して第一選択ではなく、運動療法・心理的アプローチ・薬物療法など標準的な治療を十分に試したうえで、選択肢の一つとして検討する位置づけです。